死を告げる女の映画専門家レビュー一覧

死を告げる女

生放送5分前、報道キャスターが受けたのは、死を予告する情報提供の電話だった。「私が殺されたら、あなたが報道してください」という謎の言葉。そして発見された母娘の遺体。犯人は誰なのか、なぜ私が選ばれたのか――事件の真相に近づくほどに、不安、執着、嫉妬、恐怖が増幅するサスペンス・スリラー。主演は「ハン・ゴンジュ 17歳の涙」で各新人賞を総なめにしたチョン・ウヒ。精神科医イノに「JSA」「渇き」「エクストリーム・ジョブ」のベテラン、シン・ハギュン。セラの母ソジョンに、ホン・サンス監督作「あなたの顔の前に」で百想芸術大賞女性最優秀演技賞を受賞したイ・ヘヨン。2008年の短編「春に咲く」が数々の賞に輝いたチョン・ン監督の初長篇映画。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    神経症と精神分析に代わり、ホラーの設定に解離性同一性障害と催眠療法を取り入れようとする試みは挑戦的だが、それが映画的な面白さに結びついているかは微妙なところ。特に主人公が見る幻覚の手垢にまみれた描写は、隠喩や徴候と結びつかない新たな視覚的恐怖の表現に達しているとは到底言えない陳腐なもの。また、終盤にかけてのひねりもありがちな発想の範疇に収まっている。しかしながら、それらの欠点を補って余りある、娘への妄執に取りつかれた母役イ・へヨンの怪演は圧巻。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    女性の社会的なキャリア形成の困難さは、とてもホラーであるということを訴えている、実に社会派なホラー映画である。真相に近づくにしたがって、自分がミスリードしていることに気付かされるという展開は、サスペンス・スリラーのような映画ではよくあることだが、本作が特徴的なのは、視界が晴れてくるにしたがい、主に男性登場人物に対する見方が変化する点だろう。また視界が晴れれば晴れるほど、男性の登場人物はどこまでいっても蚊帳の外にいることも明らかになって面白い。

  • 文筆業

    八幡橙

    ニュースキャスターの女性に宛てた一本の電話に端を発する物語。花形職業を巡る嫉妬や熾烈な競争、家庭との両立の難しさ、娘に過度な期待をかける母の存在――毎日見慣れたニュース番組の裏側に多様な問題を盛り込み、複雑に入り組む脚本を練り上げて巧みな緩急と共に演出した女性監督チョン・ジヨンの才気に瞠目。「哭声/コクソン」でもミステリアスな存在感を示したチョン・ウヒ、怪しげな佇まいのシン・ハギュン、熟練の演技が光るイ・ヘヨンの三つ巴演技合戦も見応えあり。

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