生きててごめんなさいの映画専門家レビュー一覧

生きててごめんなさい

「余命10年」の藤井道人がプロデュースし、現代日本の若者たちが抱える“病み”を見つめた物語。恋人の清川莉奈と同棲生活を送りながら小説家を目指す園田修一はある日、高校の先輩・相澤今日子が働く大手出版社の新人賞にエントリーすることになるが……。出演は、「野球部に花束を」の黒羽麻璃央、「窓辺にて」の穂志もえか。監督は、藤井と共にテレビドラマ『アバランチ』の演出を手掛けた新鋭・山口健人。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    出版社勤務経験のある立場からすると、飲みの席とかならまだしも日中のオフィスで同僚から「書いてるんですよね? 小説」と言われるような職場は「こんな出版社は嫌だ」の筆頭だ。そうしたもろもろ雑な出版業界などの背景描写(ペット産業をめぐる社会的視線の欠如も気になった)の一方、小説家になる夢を捨てきれない主人公と、極端に自己評価が低い恋人の人物描写に関しては妙にリアル。主人公の部屋のシーンではほぼすっぴんで通していることも含め、穂志もえかが滅法いい。

  • 映画評論家

    北川れい子

    負け犬ふうなタイトルはどうかと思うが、実にユニークで説得力のあるラブストーリーで、冒頭の居酒屋シーンからこちらの首根っこをガッシリ。他人や社会と上手く付き合えないというキャラクターは映画の定番で、この作品の莉奈もそういう手のかかるキャラなのだが、自分を誤魔化せない莉奈の危うさが、逆に現代人や社会のカラクリを炙り出し、このあたりも小気味いい。莉奈役の穂志もえかと、莉奈をペット扱いしている主役の黒羽麻璃央の、アップを含めた演技にも拍手したい。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    テン年代前半、多数のBABEL LABEL作品を観たが私は結構彼らが好きだった。映画史を参照せず、彼らヤングたちが心地よく感じるツルッとした画面で攻めてくるため、シネフィルにスルーされ、批評の援護ゼロだった彼ら。だがその感覚や主題は真摯で良かった。それは藤井道人氏の水面下の部分、予備軍、同じ可能性を持つ作り手らの気配であり、また本作「生きごめ」もそれだ。本作は近代日本を貫く青年の文学への夢(迷妄)や男女関係の腐りをオリジナルに見出し現代性で切開する。良い。

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