浦安魚市場のことの映画専門家レビュー一覧

浦安魚市場のこと

2019年3月、半世紀を超える歴史に幕を下ろした浦安魚市場の最後の営みを記録したドキュメンタリー。古くからの漁師町・浦安のシンボルとして存在した魚市場。脈々と繋がってきた暮らしを謳歌する人々。だがその瞬間は、緩やかに、そして突然訪れる。監督は、これまで主にカンボジアで短編中編のドキュメンタリーを制作してきた映像作家・歌川達人。これが初の長編作品となる。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    中心人物の魚屋店主一家が住む築浅の瀟洒な一軒家や、ポストクレジットで挿入される移転先の小綺麗な新店舗が象徴的だが、再開発における旧住民と(本作では取り上げられないが)新住民の構図は保守主義&伝統主義と新自由主義の違いでしかなく、そこにあるのは「対立」ではなく「時代の流れ」でしかない。見当外れなイデオロギー対立に落とし込まず、その「時代の流れ」をどう捉えるか観客に委ねているところに好感。この店主、人としては最も苦手なタイプではあるがそれは別の話。

  • 映画評論家

    北川れい子

    閉鎖が決まった魚市場の、その最後の日までを追った作品だが、不思議と感傷度は薄い。市場に限らず、地元の人たちの日常に溶け込んでいた場所や風景が失われてしまうと、過剰に感傷的になるものだが、この市場の店主たちは、意外とサバサバ店仕舞いの準備をする。本来ならば、閉鎖が決まるまでのいきさつをこそ撮るべきでは。そういう意味ではかなり受け身のドキュメンタリーで、一番感傷的なのは監督かも。ただ登場する店主たちはそれぞれに魅力的で、やっぱり主役は人間なのだ。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    2013年「アナタの白子に戻り鰹」(監督はこの映画の助監督)を観て唸った。魚食文化の宣伝隊としてロックバンド「漁港」が存在し、そのフロントマン森田釣竿が、森の石松のような、寅さんのような、「トラック野郎」星桃次郎のような愛すべきお騒がせ男を演じたその中篇は日本人の心の琴線をグイグイ引いて一本釣り、おいしい魚も食べたくさせた。その彼の実像と閉場に向かう魚市場の記録だ。ナレーションや字幕がつくくらいでもよかった気がするがしみじみ見入った。魚食、大事。

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