理大囲城の映画専門家レビュー一覧

理大囲城

2019年、アジア屈指の名門校・香港理工大学が警察に封鎖され、要塞と化した緊迫の13日間を記録したドキュメンタリー。逃亡犯条例改正反対デモで最多となる1377名が逮捕されるなか、匿名の監督たちはデモ参加者として戦場と化した構内でキャメラをまわし続けた。2021年山形国際ドキュメンタリー映画祭で、香港映画として初の最高賞ロバート&フランシス・フラハティ賞を受賞。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    これ誰が撮ったんだろう。大学構内で次々逮捕者が出て、追い詰められていく状況を余すところなく捉えている。撮っているやつらは逮捕されなかったのだろうか。最後の最後までカメラは回り続ける。中にいるやつらの顔は全部モザイク処理されているが、それぞれの顔が見えるようだ。彼らの言葉が突き刺さる。どこかユーモアもある。「本当は怖いんだ」と語る若者が持ってる武器が弓矢!だったりする。みんな若い。青春真っ只中。防毒マスクで抱擁する彼らの姿がいつまでも残る。

  • 文筆家/俳優

    睡蓮みどり

    掠れゆく叫び声が飛び交う。誰を信じていいかわからなくなってくる。ああ、ここは戦場なのだ。日に日に弱ってゆく身体と、迫りくる心理的な限界。香港民主化デモに関するドキュメンタリーは多く作られてきたが、思想を訴えるのではなく、とことん、そこで何が起こっていたかという実態に迫っている。カメラが捉える緊迫感からは目が離せない。香港理工大学包囲事件の渦中にいたという匿名の監督たちによる、まさに命懸けの撮影。いつか彼らが名前を明かせる日がくる世界を願う。

  • 映画批評家、都立大助教

    須藤健太郎

    運動を内側から撮る。それは最終的にデモ隊たちの内面を、つまりは心の中の葛藤を撮ることに向かっていく。この階段をのぼるか降りるか。重大な決定の前で判断ができなくなり、動きを止める二人を捉えたショットは、「理大の階段」として語り継がれていくだろう。銀色のエマージェンシーシートが舞うラストショットも忘れがたい。人を寒さから守るはずのシートが誰もいない空間のなかで空しく宙を舞っている。不在のアレゴリーとおぼしき無人のダンス。だが、何の不在か。

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