ザリガニの鳴くところの映画専門家レビュー一覧

ザリガニの鳴くところ

全世界で累計1500万部を超える大ベストセラーを映画化したミステリー。1969年、ノースカロライナ州。裕福な家庭の青年の変死体が湿地帯で発見される。容疑者はその湿地帯の中、たった1人で育った少女カイア。事件の裏に隠された衝撃の真実とは? 出演は『ふつうの人々』でゴールデン・グローブ賞候補となったデイジー・エドガー=ジョーンズ、「シャドウ・イン・クラウド」のテイラー・ジョン・スミス。原作にほれ込んだリース・ウィザースプーンが製作を務め、テイラー・スウィフトが楽曲を書き下ろしている。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    結末は良いが、事件を冒頭に持ってきて謎を強調したことでオチありきの映画になってしまった点はいただけない。時系列順の語りでは観客がついてこないと不安を感じたゆえの選択にも思えるが、前フリとして機能するならば、原告側をひたすら平板な悪役として描く裁判場面の緊張感のなさが正当化されるというわけではないだろう。また、単に美しいものとして捉えられる自然描写にも疑問が残る。沼や湿地、そこに暮らす生き物たちの不気味さや恐ろしさを無視しない道もあったのでは。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    湿地に住む娘のロマンスと街の住民たちによる偏見や差別、殺人事件の真相を探るミステリ、そして湿地帯の清々しい自然描写など、そのどれもが丁寧に綴られている。そしてその根底にあるのは、自然を愛でながら征服しようとする文明側の暴力や矛盾だろう。それらは最終的に悲劇として、湿地の娘に襲い掛かる。一見、それら文明側に対して、自然の無垢さや純真さを称揚する映画にも見えるが、そこに止まらず正当な野蛮さをもって抵抗するデイジー・エドガー=ジョーンズが良い。

  • 文筆業

    八幡橙

    湿地と沼の境、吹き抜ける風、揺れる木々、暮色の空に飛び交う鳥の影――。原作で微細に綴られる自然の描写をそのまま写し取ったかのような映像の力を何より感じた。極限まで一人で生き、それでも他者の助けを得て命を繋いだ少女が凝視した自然の、人間の、残酷さと包容。水の流れのようにすべてがタイトルへと辿り着くラスト。自然の奥の奥、人間がもっとも動物に近づく場所へ導かれたとき、本当にざわっと鳥肌が立った。一点、少女の描写にあと少しの野性味と個性があれば。

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