光の指す方への映画専門家レビュー一覧

光の指す方へ

実在する映画館シネマネコを舞台に、不器用な青年と周囲の人々の優しい存在を繊細に掬いあげるヒューマンドラマ。鬱々とした日々を過ごす浪人生の晴斗は、年の離れた姉がオープンさせた映画館で映写技師の圭吾や昔馴染みの常連客たちと出会い、ある光を見つける。「きみとみる風景」の今西祐子監督による長編第2作。出演は「14の夜」の犬飼直紀、「尊く厳かな死」の松崎映子。2022年11月18日よりシネマネコにて先行公開。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    タイトルもそのまま、映写のフィルムチェンジを人生の転機に見立てた、もはや暗喩を取り繕うとさえしていない「映画についての映画」。産業としての映画の終焉を察知してか、世界中の巨匠名匠がこぞって「映画についての映画」を作っている現在、その試みはあまりにも無防備で素朴にも思えるが、本作はその無防備さと素朴さも味方につけて清々しい着地点へと誘う。限定されたロケーション、役者による演技のバラつきなど、商業映画として気になるところは多々あるが。

  • 映画評論家

    北川れい子

    ややこしい言い方になるが、後ろ向きなりに前向きな映画ではある。いまや滅多に見かけないフィルム映写機に魅せられた浪人生のささやかな気持ちの張り。といって浪人生の未来が明るいわけではないのだが、等身大の話として実感はある。が彼の姉がオープンしたという設定のミニシアターの活気のなさは、観ているだけで気が滅入るほどで、撮影は実在する青梅の木造映画館、せめてもう少し賑わいを見せてほしかった。これでは早晩、店仕舞いになっちゃいそうで、そっちの方が気になる。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    ああ、これは個人的には、フィルム上映の映写技師経験者としては、ちょっと冷静ではいられない、思い入れてしまうところがある映画ですね。映画のフィルム上映ということが特殊なことになり消えていこうとする今、記録としての意味もあると思う。この主人公ぐらいの年齢で私も映写を習い覚えたし、その後機会があってすごい量の面白い映写をやった。でもそのせいであんまり人生論に重ねたり、象徴的には捉えなかった。この映画が不意に私に投げてきたのは大きな肯定でした。

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