ヒトラーのための虐殺会議の映画専門家レビュー一覧

ヒトラーのための虐殺会議

ナチスが1,100万ものユダヤ人絶滅政策を決定した「ヴァンゼー会議」の全貌に迫る社会派心理スリラー。この史上最も恐ろしい会議が、ラインハルト・ハイドリヒら15名の高官によっていかに進められたかを、人々の思惑や発言、パワーバランスの変化をつぶさに追いながら明らかにしていく。そこで繰り広げられる光景は、我々がよく知っている「ビジネス会議」。異なるのはその「議題」だけ、つまり「ユダヤ人の大量虐殺」について。「移送」「強制収容と労働」「計画的殺害」など様々な方策が、あたかも「タスク」のように次々と議決されていく。その時間は、たったの90分だった……。アドルフ・アイヒマンが記録し、ホロコースト関連で唯一残された議事録に基づき、80年後の2022年にドイツで製作された。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    続々と人が集まってくる。そして静かに会議が始まる。何でこんなにユダヤ人を抹殺しなきゃいけないのかよくわからない。出席者たちはそれが当然であるかのように粛々と殺し方について話し合う。みんな俺が俺がで自分の管轄がいかに大変か自己主張する。ヒーローみたいな格好いい人は誰もいない。会議の席順とかにこだわるセコさも普通の人すぎて逆に怖い。ヒトラーの人を懐柔するテクニックには舌を巻く。正義と思い込んだ人間が才能を発揮するとこうなるのか。ただただ怖い。

  • 文筆家/俳優

    睡蓮みどり

    いかに効率的に、いかにコストがかからないようにユダヤ人を「駆除」するか。およそ人間に対して使うとは思えない言葉が繰り返し発せられる。これはエイリアンたちの会話だ。人間の姿をしているが人間の会話ではない。残虐シーンはひとつも出てこないのに、淡々と行われる会議の恐ろしさに見ていて吐き気を催した。すごく精神的にくる映画であった。ヒトラー不在の中、すでに答えの決まった会議に観客は参加させられる。これ以上戦争を始めないためにも、あの吐き気を忘れない。

  • 映画批評家、都立大助教

    須藤健太郎

    原題は「ヴァンゼー会議」。コピーも本来は「人類が戦争に負けた時」で、会議の議事録を基にした、いたって真面目な室内劇にして会話劇。見終わってみると、日本版の宣伝から想像されるものとはまったく異なる印象を持つだろう。交わされる会話は議事録そのままではないにせよ、役人同士の意地の張り合いから殺人の分業体制(効率上昇と処刑人のPTSD問題の解決)まで、主題はすべて出揃っていたわけだ。ショットの積み重ねとして作品を構成しようという意志に貫かれた一作。

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