光復の映画専門家レビュー一覧
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脚本家、映画監督
井上淳一
深川栄洋を観るのは長篇デビュー作の「狼少女」以来だと気づいた。それほど、僕にとってはどうでもいい映画を撮る「撮り屋」さんだった。しかし、こんな切れ味のいいナイフを懐に隠していたなんて。不幸を凝縮したような地方都市に住む中年女性。こんな人、たくさんいるはずと思わされるリアルさ。そこに自己責任など入り込む余地はない。世間の無関心と悪意。その着地点が出家じゃイヤだなと観ていると、思わぬオチが。久しぶりに「あ」と声を上げてしまった。培った技術。映画を観た。
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日本経済新聞編集委員
古賀重樹
深川栄洋の原点回帰というより、「櫻の園」の宮澤美保の久々の主演作として記憶に刻まれそうだ。地方に住む認知症の母親の介護のために婚期もキャリアも逃した40代の女性。その一筋の光であった不倫の代償としての転落物語。殺人容疑をかけられ、秘密を暴かれ、暴行され、車にはねられ、失明する。石を投げられ、貶められ、いじめにあい、家を失う。まるで現代の「西鶴一代女」だが、社会の陰湿さという点ではもっと救いがない。行き着く先は「空」の思想ということか。
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映画評論家
服部香穂里
人生の道半ばで両親の介護に明け暮れるも、いつしかその献身のみが、皮肉にも唯一の生きる意味となっていた40代独身女性。見て見ぬふりしたい生々しい現実を突きつける導入部なんて序の口とばかりに、彼女に付きまとい続ける果てなき悲運。“善意”の危うさを一刀両断し、怒涛の負の連鎖に身を委ねることでしか、真の平穏の境地には達し得ないとさえ思えてくる逆説的幸福論が、鬱屈した時代ゆえに救いとなり得るかもしれない、監督と女優夫婦二人三脚の系譜に新たに加わる渾身作。
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