あのことの映画専門家レビュー一覧

あのこと

2021年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞に輝いたヒューマンドラマ。1960年代、中絶が違法とされるフランス。貧しい労働者階級出身ながら、努力を重ねて大学に進学し、学位目前だったアンヌに、突然の妊娠が発覚。狼狽した彼女は解決策を探るが……。出演は「ヴィオレッタ」のアナマリア・ヴァルトロメイ、「仕立て屋の恋」のサンドリーヌ・ボネール。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    長い金属の棒をアソコに突っ込む。ひたすら痛い描写に目を背けたくなる。妊娠した女の子があの手この手で中絶しようとする。誰に相談しても拒絶される。彼女がだんだん追い詰められて突飛な行動に出る。そのアクションに息を飲む。次に何をやらかすか。いっときも目が離せない。法律で中絶が禁止されるだけで、女性がこれほどまでに苦しめられるのか。驚いた。周りの男たちは最低なやつらばっか。相談に乗るふりして「やらせろよ、妊娠するリスクはないだろ」とかホント最低。

  • 文筆家/俳優

    唾蓮みどり

    見ているのがとてもつらい。いや、見られているのが、とてもつらい。まるでモンスターに向けるまなざしのような、仲間の、医者の、人々の視線が彼女を襲う。苦しいし、吐きたくなるし、泣き叫びそうになる。それでもこの映画が大切だと感じる。大切? いや違うな。この映画が他人事だと思えない。すべての責任が彼女にのしかかり、私も身動きが取れなくなる。セックスを描くとはこういうことだ。原作小説もぜひ読みたい。オードレイ・ディヴァンは追い続けたい監督のひとりとなった。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    原作と比べると、映画版では時代性を希薄化している。これはすでに過ぎ去った時代の物語ではない。監督は「いま・ここ」で生じている出来事として中絶の物語を提示したかったのだ。同一化は形式の問題と自覚して主観ショットを退け(同一化には対象が必要だから)、胎児をマクガフィンとして映画的作劇を組み立てる(連絡先入手の場面はスパイ映画のよう)。原作が試みた時間の滞留はカウントダウンに変換される。「思考」ではなく「アクション」、その選択を是とするか非とするか。

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