窓辺にての映画専門家レビュー一覧

窓辺にて

「猫は逃げた」の今泉力哉が完全オリジナル脚本で描く大人のラブストーリー。フリーライターの市川は、編集者の妻・紗衣が担当している作家と浮気しているのを知っているが、彼女には言えずにいる。また、浮気を知ったときに芽生えたある感情にも悩んでいた。出演は、「ばるぼら」の稲垣吾郎、「母性」の中村ゆり、「ホリック ×××HOLiC」の玉城ティナ。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    今泉力哉作品、特に自身のオリジナル脚本作品の特性の一つは、中心を欠いたままどこに辿り着くのかわからないその不安定な美しさにあるが、本作はそんな彼の作家性に深い部分で共鳴している稲垣吾郎という安定感抜群の中心を得て、これまでのフィルモグラフィーで最もすべての焦点がパキッと定まった作品となっている。稲垣同様、今泉作品初出演となる中村ゆり、玉城ティナも他の出演作とは比較にならないほど魅力的。自分にとっては、文句なしに現時点における今泉監督の最高傑作だ。

  • 映画評論家

    北川れい子

    固定カメラによる喫茶店のムダ話のような会話が延々と続くのには、またかとウンザリする。意味のない会話で相手の真意を探るのならまだしも、ただ喋っているだけのお喋り。さしずめ今泉監督にあっては意味のないお喋りは知的なゲームのつもりなのだろうが、あげく見えてくるのは妻の浮気を知っても何も感じない男のささやかな戸惑いだとはまさに肩透かし。女子高生作家や、不倫中の友人のエピソードも週刊誌レベル。低体温キャラの稲垣吾郞は一人のときが一番絵になることを発見。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    2019年の阪本順治監督「半世界」のときと同等のしっくりくる適役の稲垣吾郎。「半世界」ではフィジカルな職人的環境のなかで凝縮された力感や熟練の表れとして小さく見えた稲垣氏が本作の都市的精神的環境と風景のなかでふわりと大きく見えた。今泉監督はもっと若い頃は自意識の怪物だった。いまはその異形の凸凹、突出の位置までベースが盛り上がり、その認識も映画も大きくなっている。嫉妬、絶望を利用しないで愛の話をやる。そして「ドライブ・マイ・カー」に返し歌をした。

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