シスター 夏のわかれ道の映画専門家レビュー一覧

シスター 夏のわかれ道

疎遠だった両親の事故死によって、幼い弟が突然目前に現れた少女が、人生の選択に悩みながらも成長し、姉弟の絆を深めていく感動作。監督は本作が長編2作目となるイン・ルオシン、脚本はヨウ・シャオイッグ。新鋭の女性作家がタッグを組み、現代の中国社会の背景にある一人っ子政策と家父長制の影に真正面から切り込んだ。叔母から「夢なんか捨てて弟を育てなさい」と養育を押し付けられて葛藤する主人公のアン・ランを演じるのは岩井俊二監督作「チィファの手紙」(2020年)に出演した新世代スター、チャン・ツィフォン。弟役のダレン・キムは映画初出演にして、観客が号泣するほどの名演を見せた。中国本国でコロナ禍の21年に公開されるや、2週連続No.1を獲得。中国版アカデミー賞とされる金鶏奨ほか、国内の映画賞で女優賞をはじめ数々の賞を受賞した。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    個人の飲む打つ買うから、家族における家父長制、さらには国単位での一人っ子政策まで、あらゆるレベルを貫く有害な男性性に翻弄される女性たちが、個と家族の価値観の狭間で板挟みにあう様をメロドラマ的に誇張して描く戦略は、見事に奏功している。家族のために自分の人生を犠牲にし続けてきた伯母と夢を諦めたくない主人公との、一筋縄ではいかない関係性を繊細に捉えた演出はなかでも白眉。検閲をかわしつつ挑発的な問いを投げかけるように映画を締めくくる強かさにも舌を巻く。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    登場人物の誰もが皆、自分勝手で、わがままで、素直でなくて、浅はかだけれど、優しい笑顔を持っている、複雑で矛盾に満ちた人々だ。金持ちの家の実に丁寧に作られた、とても美味しそうな四川料理に比べたら、家庭的な肉まんは取るに足らないが悪くはない。悲しく辛い出来事ばかりで、思い通りにならないことばかりの私たちの人生を、そのまま見つめて描く、厳しさと誠実さが本作にはある。そしてもちろん、そんな人生を歩まされること自体を問う社会的な側面も強く持っている。

  • 文筆業

    八幡橙

    一見ありがちな「いい話」に、中国ならではの一人っ子政策のもたらす歪、男子偏重の思想が長女に与える苦痛と犠牲、何より女性の自立の厳しさと四方から迫る理不尽を丹念に織り込んだ佳品。同じ枷を抱える伯母との対比で時代の変遷を浮かび上がらせ、母性の象徴とも言われる入れ子のマトリョーシカをさりげなく利かせるなど、人物造形含め細やかな小技が光る。社会問題を描きつつ、家庭における一人の女性の孤独と心の渇きをこそじっと見つめる監督・脚本二人の視線が沁みた。

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