桜色の風が咲くの映画専門家レビュー一覧

桜色の風が咲く

9歳で失明、18歳で聴力を失いながらも、世界で初めて盲ろう者の大学教授となった福島智の半生を映画化。全盲ろう者となり、暗闇と無音の宇宙に放り出された智。そんな彼に立ち上がるきっかけを与えたのは、母・令子が智との日常生活から見出した“指点字”であった。出演は「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズの小雪、「朝が来る」の田中偉登、「エキストランド」の吉沢悠。監督は「パーフェクト・レボリューション」の松本准平。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    この題材、しかも実話ベースの作品でこんなことを書くのは適切ではないかもしれないが、序盤の主人公が子供時代のパートは子を持つ親として恐怖以外の何ものでもなかった。リリー・フランキー演じる大学病院勤めの傲慢な医師のキャラクターは出色。それ以降も終始丁寧にリアリズムが貫かれていて、ありがちな感動ものを予想していただけに不意打ちを食らった。母親と比べると割の悪いポジションを担っている父親の造形にも、細部の描写から作り手のフェアさが伝わってきた。

  • 映画評論家

    北川れい子

    この作品のモデルとなった東大教授の若き日とその母親のことは、まったく知らずに映画を観て、自分に活を入れる気になったのは事実である。でも誤解を恐れずにいえば映画としてベタすぎて、これでもかという押し付けがましさが鼻につく。いや、ムリに泣かせようとか感動させたりの演出をしているわけではなく、事実を再現しているだけなのだろうが、9歳で視力を、18歳で聴力まで失った息子と、息子を支え励まし続ける母親の演出が同じ調子で、それがかなり息苦しいのだ。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    私が福島智氏を知ったのは2016年の相模原市津久井やまゆり園での大量殺人に関して氏が自らを意志の表出と疎通を認められぬ側、劣者と選別される側として積極的に発言されていたことからだが、その行動にも、彼の来歴を描くこの映画にも一貫して、障害によって不通となる個々の魂を無視するなという抗議があった。うまい映画ではないが見過ごせず、忘れがたい。「エクソシスト」「震える舌」を親目線から観る苦痛と同じ、対症の日々の具体に胸を突かれる。母役の小雪が見事。

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