さすらいのボンボンキャンディの映画専門家レビュー一覧

さすらいのボンボンキャンディ

他者との距離感が希薄になった未曽有の時代に贈る、愛を探す人びとの愚かで滑稽でちいさな物語。「名前のない女たち うそつき女」のサトウトシキ監督が企画・監督し、延江浩の短篇小説集『7カラーズ』(水曜社刊)の一篇を映画化。監督と原作者として「アタシはジュース」以来のタッグを組んだ。主演は「花束みたいな恋をした」「激怒」など注目作への出演が続く影山祐子。生きる実感を持てないままに、性にのめり込んでゆくでもなく声高に叫ぶでもなく、人間らしいつながりと愛を求めてさすらうヒロイン・仁絵に扮し、映画初主演を飾った。相手役の原田喧太は、本業はギタリストながら、父の原田芳雄を彷彿とさせる好演を披露している。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    ピンク四天王から30年。良くも悪くもサトウさんは変わらない。都市という開かれた空間の中での閉塞感。何者でもないまま歳を重ねることへの焦りと苛立ち。瀬々さんがメジャーでかつてのテーマを必死に焼き直そうとしている時に、これでいいのかと正直思った。30年前の映画と言われても通じる語り口。同じ歌を歌い続けるのは悪くない。でも昔はあったヒリヒリ感が欠けている。せめて主人公がスマホで何を見ているか知りたかった。これは本当にサトウさんが今撮りたかった映画だろうか。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    野球場でカツオのたたきを肴に焼酎をラッパ飲みする影山祐子。その自然なたたずまいから、最後まで目が離せなかった。ふらふらと男についていったり、雨の中をバイクでタンデムしたりするが、行動原理はまっすぐなのだ。自分に正直で、嘘をつかない。さすらいの末に渋谷の街頭に立つ姿は殺された東電OLを連想させるけれど、その心映えのすがすがしさが、あの被害者への偏見を吹き飛ばす。「ふわふわと漂う」ことへの意志を大いに肯定したくなる。サトウトシキの新たな快作。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    家庭の事情も絡み、自己否定をこじらせ昼間から呑んだくれる人妻の前に、そんな彼女のありのままを肯定してくれる、オートバイに乗った王子様が現れる。いささかトウが立った“ボーイ・ミーツ・ガール”に湧き起こるときめきは、若者同士には存在しないしがらみのようなもので徐々に澱み、“遊び”と“本気”のあいだで揺れる男女の苦悩に変わる。思春期の娘までいる男性側に立てばホラー風の展開を、常にほろ酔いの女性の視点に徹することで、ビターなファンタジーに昇華させた巧篇。

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