アフター・ヤンの映画専門家レビュー一覧

アフター・ヤン

AIロボットが家族として溶け込んでいる近未来を舞台に、故障したロボットのヤンが体内に撮りためた記録映像をたどりながら、家族との愛情の軌跡をひもとくSF映画の意匠を凝らしたヒューマン・ドラマ。小津安二郎を信奉し、小津と組んだ脚本家・野田高梧に因んでコゴナダと名乗る新進監督の長編第2弾。A24製作、阪本龍一がオリジナル・テーマ曲を担当した。残された映像を手がかりにヤンのミステリアスな過去をたどっていく主人公ジェイクに扮するのは、「THE BATMAN-ザ・バットマン-」のコリン・ファレル。妻のカイラに「ウィズアウト・リモース」のジョディ・ターナー=スミス、ヤンをドラマ『アンブレラ・アカデミー』のジャスティン・H・ミン、ヤンを兄と慕うミカに、本作が映画デビューとなる、マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ。そして、監督のデビュー作「コロンバス」で主演を務めたヘイリー・ルー・リチャードソンが物語の鍵を握る謎めいた女性を演じた。ヤンの体内に残された映像には何が映っているのか。そこに刻まれたヤンの記録/記憶は、いったい何を物語るのか。そしてAIに感情は宿るのか。幾多のミステリーを提示しながら、人間とロボットの関係性について観る者に問いかける。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    不在の人をめぐる話。AIロボットのヤンが、物静かでいい奴っぽくて好感が持てる。いなくなった後で知るヤンの記憶の数々。数秒という短さが逆に想像を掻き立てる。今はもういないという事実が効いている。いなくなって空いた気持ちの穴をどう埋めていくのか。家族の再生とともに描かれていく。記憶の中の彼女。テンションが上がる。AIロボットも恋をするのか。その女子が登場するたび、キュンキュンする。大した事件は起きない。少しずつ謎が解けていく面白さがある。

  • 文筆家/俳優

    唾蓮みどり

    AIロボットのヤンに記録された数秒の映像の積み重ねを見るというという、非常に繊細ながらも大胆な手法で、ある家族の姿を浮かび上がらせる。誰もいない美術館で、インスタレーションを見ている感覚に近いのかもしれない。誰かの記憶とは、映像とは、根本的に切ないものなのだ。映画好きのためのしかけがちりばめられているが、知らなければ楽しめないということもなく開かれている。「リリイシュシュ」の曲をまさかこんなふうに聴くことになるとは。サントラを買ったのが懐かしい。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    私はいまでもアントニオーニの「欲望」(67)の教訓は有効だと考えている。映像をいくら虚心に見つめようとも謎が解明することはなく、そこに現れるのは映像の物質性でしかないのだ。この映画はあたかも故人の残したスマホを解析すれば、その人の人生がわかるとでもいうようである。行動にはかならず原因があり、記憶の奥底にしまわれた過去の経験を探っていけば、不可解なことは解き明かされる。映像は透明であり、その意味は自明である。AIを口実にした、美学的な後退の実現。

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