バビ・ヤールの映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
上島春彦
全篇アーカイヴ・フッテージの凄味。最小限の説明字幕で鮮明な映像自体に語らせる。ナチによるユダヤ人大虐殺映画は数あるも、扱われるのはアウシュヴィッツの強制収容所よりずっと早い41年の事例で驚く。舞台はウクライナ、ドイツ占領下のキーウ。惨劇の始まりはここだった。虐殺の直接映像はないが直前の集合写真を見るだけで痛ましい。どこもかしこも痛ましいが、ある意味、最も残酷なのは戦後、当局が現場をレンガ工場の処理用水場にしてとっとと埋め立てたことじゃないかな。
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映画執筆家
児玉美月
星の数はこの映画の前ではもはや形骸化し何の意味もなさないが、ロズニツァのフィルムには、彼がこの映画を「アート」と形容するように、つねにその芸術世界へと否応なしに身体が巻き込まれてしまっている恐ろしさをおぼえる。終盤の法廷におけるひとりの女性の証言には迫力が漲り、そこには映像の不可能性が逆説的に立ち上がってくるようでもあるが、同時に映画が語りうることの奇跡に肉薄しているようにも思える。原題に付された「コンテクスト」が、重層的な意味を帯びてくるだろう。
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映画監督
宮崎大祐
何者かがなんらかの意図を持って撮影した戦時中の記録映像をいま新たなる意図をもって再編集し映画作品に仕上げるという制作プロセスが浮かび上がらせるのは、現代においてわれわれが歴史を語ることの不可能性と、それでもあえて歴史を語らなければ早晩人間は人間でなくなってしまうのではないかという作者の存在論的な逼迫である。本作でもセルゲイ・ロズニツァは猛烈なニヒリズムの嵐の中に身を置きながらも、その中心で人間への信という名の真っ黒い篝火をかざしている。
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