秘密の森の、その向こうの映画専門家レビュー一覧

秘密の森の、その向こう

「燃ゆる女の肖像」のセリーヌ・シアマ監督による、娘・母・祖母、三世代を繋ぐ喪失と癒しの物語。祖母が他界し、その悲しみに耐えかねた母が姿を消した日。8歳のネリーは、かつて母が遊んでいた森を探索していると、母と同じ名を持つ8歳の少女マリオンと出会う。出演は、本作が映画初出演となるジョセフィーヌ&ガブリエルのサンス姉妹、「女の一生(2016)」のニナ・ミュリス。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    瑣末なシーンの集積から徐々に若手俳優の思わぬ魅力的な表情を引き出していく得意の演出が冴え渡っており、映画初出演だというサンス姉妹の存在感は特筆に値する。一方で、さりげない瞬間を重視するせいか、作品の長さを問わず冗長すぎると思わされる局面も多かった過去作と比べても、限定された空間を舞台として、中心となる設定の不思議さを除いてきわめてシンプルな構成を採用したことが奏功し、主題と尺のバランスが改善されたことで、全体を通してぐっと引き締まった印象に。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    見事に構成された人物関係や物語、厳格な画面といった美点が、ややもすると堅苦しい形式主義に転じる恐れがあるように思えるセリーヌ・シアマだが、本作は驚くべきシンプルさが全体を貫いており、実に気持ちがいい。現在と過去を行き来する実にファンタジックな設定は、ほとんど風が吹いて揺れる木の葉と同じような自然さで扱われている。もはや物語の妙は必要とせず、極力無駄を削ぎ落とし最小限の形式に、女たちのささやかな会話さえあれば良い、という凄みすら感じさせる。

  • 文筆業

    八幡橙

    「燃ゆる女の肖像」と同じく、本来の居場所ではない空間での女と女の物語。とはいえ今回セリーヌ・シアマが描くのは、瓜二つの8歳の少女二人の、森の奥での時空を超えた密かな邂逅だ。「誰からも愛されない子供なんていない」と訴えた、シアマ脚本の「ぼくの名前はズッキーニ」により近い子供目線で綴られる、不思議でいて妙に身近な絵本のごとき大人の寓話。いくら年齢を重ねても、少女の頃の瞳は変わらない。そのことを、監督特有の美と怪奇、薄皮一枚の幽かな境に描く珠玉の一本。

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