あの娘は知らないの映画専門家レビュー一覧

あの娘は知らない

「溶ける」でカンヌ国際映画祭のシネフォンダシオンに選出された井樫彩が、オリジナル脚本で挑んだ喪失と再生の物語。海辺の町で旅館を経営する中島奈々は、亡き恋人の足跡を辿る宿泊客・藤井俊太郎の案内役を買って出る。共に行動するようになった2人は……。出演は「サバカン SABAKAN」の福地桃子、「キングダム2 遥かなる大地へ」の岡山天音。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    高校時代、同性に告白したことを未だに揶揄される主人公がどうしてその土地に留まっているか分からない。遺された旅館のためなのだろうが、それへの拘りも見えない。映画で描かれる時間までの生き方が書かれているようで書かれていない。ご都合設定が積み重ねられていく。20代前半、いくら才能があっても引き出しがそうあるはずもなく、撮ることは出来ても書くことは出来ない。ちゃんとプロデュースする人はいないのか。これじゃすぐ飽きられる。仕事があることは誇れることではない。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    恋人を亡くした旅人と両親を亡くした旅館の女主人による海辺の町での喪の作業。ほとんど二人の会話だけで押し切ってしまうところに井樫彩監督の潔さと力量を感じる。恋人や両親がなぜどのように死んだのかはあえて描かない。同性への片思いや子供をつくれない体であることも後景にとどめ、二人の喪失感の重みだけと向き合う。夜の海に浮かぶ二人、ゴミ捨て場の酔った二人、山に登るリフトの二人。そんな二人の孤独を浮き立たせる水、光、風。この監督には画面で語る力がある。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    亡き恋人が最後に見た情景にふれたいと願う旅人と、幼い頃に亡くなった家族に代わり、若くして旅館を切り盛りする女性。シチュエーションは多彩に、ほぼふたりの対話のみで進行する中で、故人に加えて彼らの秘密や苦悩も明かされていくが、終盤に登場する“第三の女”をめぐる類型的エピソードが俗っぽい違和感をもたらし、優しい想像も織り交ぜつつ丹念に心を通わせ合ってきた男女の物語に水を差す。言いたいことを詰め込むあまり、作品全体のトーンに乱れが生じたように感じた。

1 - 3件表示/全3件