よだかの片想いの映画専門家レビュー一覧

よだかの片想い

直木賞作家・島本理生の同名恋愛小説に、主演の松井玲奈が惚れ込み、「Dressing UP」の安川有果・監督×「愛なのに」の城定秀夫・脚本で映画化。顔の左側にアザがある主人公のアイコが自分の人生と向き合い、悩み考え、前に進んでいく様子を繊細に描き出す。アイコが好意を寄せる映画監督の飛坂逢太に「偶然と想像」の中島歩、出版社に勤務するアイコの友人役に「コンフィデンスマンJP」シリーズの織田梨沙、研究室の仲間役に「人間の時間」の藤井美菜、「うみべの女の子」の青木柚など、注目度の高い若手俳優が集まった。タイトルの「よだか」とは、宮沢賢治の童話「よだかの星」にも登場する“夜(よ)鷹(たか)”のこと。童話では醜い鳥といじめられていた夜鷹だが、その誰もが抱える「弱さ」を新しい視点で見直し、アイコと共に一歩前へ踏み出す力を与えてくれる。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    企画も作品の完成度も文句なしにシャープだった「わたし達はおとな」に続く、メ?テレと制作会社ダブのシリーズ第二弾。過去の島本理生原作映画と比べてもいささか文部科学省推奨作品的な題材で、城定秀夫の脚本もプロの仕事に徹していて、置きにいった作品かと思いきや、ラスト5分で印象が激変。若い女性にとっての恋愛を精神の解放ではなくある種の抑圧として描き、シスターフッド的連帯に着地、と言うのは簡単だが、安川有果監督は見事にそれを映像で表現している。

  • 映画評論家

    北川れい子

    左側の頬に痣があることでひっそり生きてきた主人公の自意識が、人前に出て恋をしたことで、その自意識から解放されるという話で、宮沢賢治『よだかの星』が、さりげなくべースになっている。結局は独りよがりというか、独り相撲に終わる恋の相手が、作家性にこだわる映画監督というのがくすぐったいが、話のメインはあくまでも主人公の顔に対する自意識。そう言えば劇中で撮影中の映画のタイトルは「わたしの顔」。メイクという落としどころで顔からも自由になるラストがいい。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    ちょっといい話にとどまらぬ硬質な繊細さがある。あと速度も。ヨーロッパの恋愛映画には活発な議論や対決の姿勢がある。当事者同士がバンバン喋り、想いをぶつける。日本映画、アジアの映画では恋愛映画=個々の物思い、みたいになってないか。それは民族性や文化だろうが、映画は描写に閉じこもるよりも認識の表現となるほうが強い力を持つ。本作と、松井玲奈演じるヒロインは珍しくその発信力がある。彼女が顔面血まみれになる場面の活劇性や、サンバを踊る場面の爽快さも良い。

1 - 3件表示/全3件

今日は映画何の日?

注目記事