夜、鳥たちが啼くの映画専門家レビュー一覧
夜、鳥たちが啼く
『そこのみにて光輝く』『オーバー・フェンス』の作家・佐藤泰志が、郷里の函館ではなく関東近郊を舞台に描いた同名の短篇小説を映画化。人生を諦めかけた小説家と愛を諦めかけたシングルマザーの二人が夏の終わりに始めた「半同居」生活。壊れかけていた二人は、やがて互いの傷を癒すように強く求め合い、一筋の人生の光を見つけようとする。先の二作の映画化脚本を手掛けた高田亮が、「愛なのに」「ビリ―バーズ」の鬼才・城定秀夫監督とタッグを組んだ。内に秘めた破壊衝動と葛藤する売れない小説家の主人公・慎一を演じるのは「余命10年」「耳をすばせば」の実力派俳優・山田裕貴。離婚を機に、息子とともに慎一のもとに身を寄せるヒロイン・裕子を「ぜんぶ、ボクのせい」の松本まりかが演じた。
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脚本家、映画監督
井上淳一
ついに城定秀夫が佐藤泰志の世界までモノにして、と書こうとして、待てよ、これは城定がピンクでずっと描いてきたことと地続きではないかと思い直す。傷ついた人たちの再生は王道だが、微妙な匙加減を間違うととんでもなく陳腐なものになるのは数多の映画が証明済み。脚本も上手い城定が高田亮に脚色を託した意味と意義。山田裕貴と松本まりかがこんなにいいなんて。森優理斗は天才。これも脚本と演出の力なのだろう。「恋のいばら」も面白かったし、城定快進撃はいつまで続くのか。
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日本経済新聞編集委員
古賀重樹
離れのプレハブに寝起きする男と、母屋に幼い息子を連れて転がり込んできた女。売れない小説家と職場の先輩の別れた妻との微妙な関係が、微妙な空間の中で発展する。佐藤泰志の世界は、たとえ函館が出てこなくとも、そうした特殊な空間が生み出すドラマなのだと納得。そういう意味で佐藤原作映画の中で最も作為を感じさせないシンプルな作品。脚本の高田亮はそこらを深く理解しているし、城定秀夫はうってつけの演出家に違いない。バツイチ同士の男女の渇きと怖れが生々しい。
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映画評論家
服部香穂里
興味をそそる座組から想像されるものとは幾分違う爽やかな味わいに、意表を突かれる。子どもが“お荷物”から“かすがい”に進化する、だるまさんが転んだに興じる名場面もあるが、発情期の鳥のごとく求め合うふたりの芯のようなものが曖昧で、恋人に見限られた後も散見する私小説作家の粗暴で粘着質な一面も、ひとり寝が不得意なシングルマザーの弱点も放置したまま、なし崩し的に現状維持をよしとされても、“婚前家庭内別居”の相手が代わっただけで、彼らの今後を憂慮してしまう。
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