愚か者のブルースの映画専門家レビュー一覧

愚か者のブルース

2015年公開の「浮気なストリッパー」、2作目の「彼女は夢で踊る」に続く、広島発のストリップ劇場3部作の最終章。前作では劇場の社長役で主演した加藤雅也が、本作では共同企画・主演を務め、30年前に伝説の映画を撮ったものの今は落ちぶれている映画監督を哀歓深く演じた。「ヒモ」のような映画監督を健気に支えるピンサロ嬢・タマコ役に熊切あさ美。加藤に女を寝取られたチンピラ役に実力派・仁科貴。加藤と熊切が逃げ込むストリップ劇場の館長に、3部作の企画者であり、本作で監督・脚本を務めた横山雄二。広島の歓楽街に息づく風変わりな仲間たちには筒井真理子、お笑いコンビ・デンジャラスのノッチ、タマコの母親役に39年ぶりの映画出演となる、ピンク・レディーの未唯mie、ストリッパー役に元AKB48の小原春香、佐々木心音、矢沢ようこ。中国地方に唯一残っていたが、2021年に惜しまれながら幕を閉じた広島第一劇場の最後の貴重な姿が収められている。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    シナリオを勉強している人は、こういうことをやってはダメという見本として、この映画を観た方がいい。行動原理の分からぬ登場人物、あるようでない主旋律、全体に寄与しないシーン、すべて台詞による説明、なのに肝心なことが何も書いていない。いつかどこかで観た映画のパッチワーク。思うに任せず、場当たり的にしか生きられない人を描くなら、それ相応の手があるはず。同じ主演、同じストリップ劇場を舞台にした「彼女は夢で踊る」には遠く及ばず。横山雄二、役者としてはいい。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    若き日に傑作を手がけながら、そのプライドと恐怖心ゆえに、ずっと映画を撮れないままで時が過ぎ、今では風俗嬢のヒモになっているしがない中年の映画監督。その心情が横山雄二の脚本と加藤雅也の演技によってありありと描き出されている。舞台である広島のストリップ劇場と歓楽街がいい味を出していて、横山や佐々木心音ら劇場で生きる人々の哀歓が懐かしい。夢を語って女の気を引く中年監督のふがいなさ、だらしなさ、あせり、あきらめ、開き直り。どれも生々しい。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    “監督”と呼ばれるたびに、自尊心と劣等感とのあいだで引き裂かれ、ますます現場から遠ざかってしまう一発屋のしょぼくれた姿に、不遇に迷う幾多の人びとのイメージが重なり、胸がうずく。見境なく痴情に溺れる、いささか古風な趣の男女の悶着の狂乱の渦中で、公私混同を拒みプロ意識を貫く孤高のストリッパー役の佐々木心音が、凜々しく輝く。既視感を覚えるエンディングに、滅びの美学への自己陶酔にも似たシンパシーが透けて見え、気持ちは分からなくもないが、興醒めする。

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