アンデス、ふたりぼっちの映画専門家レビュー一覧

アンデス、ふたりぼっち

ペルー映画史上初めて全編アイマラ語で制作された長編作品として注目を集め、本国で大ヒットを飛ばすと共に、2018年アカデミー賞外国語映画賞のペルー代表に選出された作品。社会から隔絶された山中でアイマラ文化の伝統的な生活を送る老夫婦の物語。オスカル・カタコラの長編初監督作ながら、34歳で急逝したため、同時に遺作となった。カタコラが友人の推薦を受けたローサ・ニーナと、カタコラの祖父ビセンテ・カタコラが出演している。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    おじいさんとおばあさんが毎日どういう風に暮らしているか。それを淡々と丁寧に描く。もう何十年もこういうことをやり続けてきたであろう、その歳月を2人の会話や動きでまざまざと感じる。マッチがないってだけで、あんなに大事件になってしまうのが、面白かった。ヤギの死体とか火事とかメチャクチャ残酷なことが起きるのに、2人の愚痴や泣き言はどこかノンキでユーモラス。やることなさそうに見えて、毎日あれこれ忙しいのが驚きだった。アンデスでふたりぼっちは大変。

  • 文筆家/女優

    唾蓮みどり

    顔のよく似た老夫婦がたった2人、アンデスの山奥でひたすら息子の帰りを待っている。じっと見つめているようなカメラの目に何度もどきっとさせられ、映像に見入ってしまう。想像力だけでは決して見ることのできない、異文化の暮らし。暮らしの中にあるなんてことのない会話、自然と共存することと、初めて聞くアイマラ語の音の心地よさに身を委ねる。驚くことにオスカル・カタコラ監督とは同じ生まれ年であった。もうこれ以上新作が見られないのが残念でならない。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    桁外れの映画的センスに恵まれたO・カタコラが、この1作で早逝とは無念の極み。ここしかないという場所にカメラを置く術を知る監督である。リャマを右奥に捉える昼食、俯瞰のロングショットによる帰還、燃え上がる家に水をかける2人、ナイフを後ろ手に進み行く姿……、数え出せばきりがない。だが、それだけではない。冒頭近く、夜、室内。パクシが火を灯すと、青から赤へと色調がゆっくり変化していく。画面を立ち上げるには音と光の繊細な組み合わせが必要と知る監督である。

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