プアン 友だちと呼ばせての映画専門家レビュー一覧

プアン 友だちと呼ばせて

タイ映画史上歴代興収1位を奪取した「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」のバズ・プーンピリヤが監督を担当し、「花様年華」「恋する惑星」のウォン・カーウァイが製作総指揮を務め、サンダンス映画祭のワールドシネマドラマティック部門で審査員特別賞に輝いた青春映画。余命宣告を受けた男がNYにいるバーテンダーの友人をタイに呼び戻し、元恋人たちに会いに行くロードムービー。監督のオリジナル脚本で、若くして亡くなった親友に捧げる半自伝的な物語。タイトルの「プアン」はタイ語の「友だち」を、英題の“one for the road”は「別れの一杯」を意味する。出演はドラマ『Hormones』で人気が爆発し、「ゴースト・ラボ:禁断の実験」にも出演しているトー・タナポップと、ドラマ『VOICE』のアイス・ナッタラットがタッグを組んだ。タイの各地域の美しい景色や、ウォン・カーウァイ作品を彷彿とさせるネオン下のロマンティックな場面など、おしゃれでエモーショナルな雰囲気が漂う。タイ最旬の音楽やファッションを取り入れてヒットを生み出し続けてきた映画会社GDH559が製作した。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    SNS時代のタイ版「ブロークン・フラワーズ」といった趣のA面は、難病という重い主題とコミカルな軽さのバランスが絶妙。カセットテープが裏返るとともに、一転してそれまで親友の旅に付き添ってきたBOSSが中心となる、よりシリアスなB面の物語が開始する趣向も面白い。ラジオやテープといったオールドメディアとスマホ、それぞれの美点を巧みに生かしつつ、現代を舞台にベタで古風な物語を説得力のある形で語り切った脚本の魅力を、若手俳優陣が瑞々しく具現化した快作。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    ロードムービーとは今ここではないどこかを希求する映画だ。現状の社会や価値観から逃避し、外の世界を渇望する。しかし余命いくばくかの男は、自分の過去を清算しようと、外ではなく自らの内へ向かっていく。そこには郷愁と後悔と少しの慰めがあるばかりで、風景と共に自身が変わることはない。本作が面白いのは旅の主役である男と比較して、付き添いの男が旅を進めるうちにどんどん魅力的になっていくところ。そうしてクライマックス、一挙に旅の主役が反転するつくりは上手い。

  • 文筆業

    八幡橙

    思い出と共に昔の恋人を一人一人訪ね歩くという「舞踏会の手帖」的展開の前半戦は、軽やかな滑り出しの冒頭からぐいぐい惹き込まれる。だが、中盤で一気に物語は思わぬ方向へ。前作「バッド・ジーニアス」にも感じた終盤の風呂敷の畳み方の手粗さは今回も見え隠れするものの、往年のウォン・カーウァイ作品を彷彿とさせる湿った叙情と爽やかな切なさが長く、いつまでも後を引く。刹那の人生と多生の縁。主演二人の存在感と人物造形も巧みで、個人的には前作以上に深く沁みた。

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