ゆめパのじかんの映画専門家レビュー一覧

ゆめパのじかん

    神奈川県川崎市にある子どもたちの居場所「川崎市子ども夢パーク」=通称「ゆめパ」。家庭でも学校でもない第3の子どもの居場所を公設民営で運営している先進的なモデルとして全国の自治体から注目を集める「ゆめパ」の日々を3年にわたって撮影したドキュメンタリー。撮影中の2020年3月に新型コロナウイルスの感染拡大により全国の学校が一斉休校となった時も「ゆめパ」は子どもたちを受け入れ続けた。子どもも大人も一緒にみんなが作り手となって生み出される「居場所の力」と、時に悩みながらも自ら考え歩もうとする「子どもの力」を、「さとにきたらええやん」の監督・重江良樹とプロデューサー・大澤一生のチームが情感豊かに描き出す。いまを生きるすべての子どもと、かつて子どもだった大人に贈る、生きる力を育む大切な「じかん」の物語。
    • 脚本家、映画監督

      井上淳一

      「さとにきたらええやん」の不満は児童館の職員がなぜこんな大変なことをやっているかが描かれていないことだった。本作にもその「なぜ」はほとんど描かれない。パンフにはちゃんと書いてある。全員がパンフを買うわけではないのだから、映画内で描いて欲しかった。やれる人とやれない人の違いは何か。それを描くことで受け入れる側の社会の不寛容が際立つのでは。ドキュメンタリーをやる時にいつも思うのだが、50分のNHKスペシャルに勝てるか。子供だけ描いていて勝てるだろうか。

    • 日本経済新聞編集委員

      古賀重樹

      虫好きの男子が歩き回り、アリを覗き込み、バッタに触れる。木工好きの女子がノコギリを引き、釘を打ち、小屋を建てる。走り回る、飛び跳ねる。よじ登る、滑り降りる。子どもたちが絶えず動いている。その姿をカメラがひたすら追う。大人たちの語りは最小限に抑え、子どもと最大限向き合う。母親が話している後ろで膝をすりむいた子どもが泣き出すところまで映っている。そんな位置にカメラを置くことで、子どもが主役のこの施設の空気を生き生きと伝えることに成功している。

    • 映画評論家

      服部香穂里

      さまざまな理由で学校に通えなくても、ひとりで引きこもる以外に、似た境遇の子も集う場所へ赴く選択肢もあると周知させることは、急を要する課題。否応なく迷い悩み続ける将来に目を向ければ、幼い頃からレールを外れて蓄える免疫も、必ず役立つとも思う。ただ、木工の才能をめきめき開花させて宮大工になる夢を見出す、ゆめパの理念を理想的に体現する彼女に目頭が熱くなる一方、遊びと学びのあいだでもがき続ける、カメラの外側のあまたの存在を想像すると、複雑な心持ちになる。

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