母へ捧げる僕たちのアリアの映画専門家レビュー一覧

母へ捧げる僕たちのアリア

2021年カンヌ映画祭<ある視点部門>に正式出品された、フランスのヨアン・マンカ監督による初長編。南仏の古い公営団地で、兄3人と暮らす14歳のヌール。彼の日課は、毎夕、昏睡状態の母の部屋の前にスピーカーを置き、母が大好きなオペラを聴かせることだった。出演は、オーディションで本作の主役を射止めたマエル・ルーアン=ベランドゥ、「女の一生」のジュディット・シュムラ、「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」のダリ・ベンサーラ。
  • 映画評論家

    上島春彦

    勝手にブラジル映画と勘違い。予備知識なしで見るのでこうなる。四兄弟のひ弱な末っ子が音楽の道を志すにいたる夏休みを描く。夏休み(&花火)映画にハズれなし。この基本設定のままで日本映画に出来そう。その際には、兄に一人麻薬の売人がいる、というのが変更になるわけだ。事実、私が気になったのはそこ。そういう社会派っぽい挿話が嫌な気分。私がヘンなのかな。ほのぼのした話にしたらいいのに、と思う。この逸脱のせいで音楽関連の部分が薄味になった。なので★は伸びず。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    主人公の少年ヌールが不在となる兄弟たちの場面では、手前に遮蔽物を置いた窃視的な構図が何度か使われており、そこにこの映画がヌールの視点を通した彼と兄弟たちの物語であることがあらわれる。ラストショットでヌールが最後の瞬間に第四の壁を破ってカメラをまなざすのも、そうして不在の間にもつねに彼のまなざしが潜伏していたことを流露させるものに思える。よって主題は原題の意味と異なる邦題が含む「母」でも「アリア」でもなく、あくまで「兄弟たちと僕」の方なのだろう。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    南仏の低所得者層の生活描写を見ているだけでもそれなりに発見と驚きがあることは確かだ。しかし近年のフランス映画はそれしか描くべきテーマがないのかというくらいこの主題を繰り返し反復しており、そこへきて本作は語りの面においても、貧しいムスリム系少年が「西洋様」の築き上げたハイ・カルチャーに憧れ、鍛錬を重ねるうちに自我を形成するという、これまた何度見たかもわからない隷属の類型をなぞっており、定型からこぼれ落ちた抵抗の口火が燃え上がるのを待ちわびていた。

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