戦争と女の顔の映画専門家レビュー一覧

戦争と女の顔

独ソ戦に従軍した女性たちの証言集『戦争は女の顔をしていない』を原案にし、第 72 回カンヌ国際映画祭ある視点部門監督賞・国際批評家連盟賞を受賞した戦争ドラマ。PTSDを抱えた元兵士のイーヤとマーシャは、厳しい環境の中、互いに支え合いながら生きていく。巨匠アレクサンドル・ソクーロフの下に学んだ新鋭カンテミール・バラーゴフ監督が、終戦直後のレニングラード(現・サンクトペテルブルク)を舞台に、戦後の女性の運命を描いた。主演は、新人のヴィクトリア・ミロシニチェンコとヴァシリサ・ペレリギナ。第92回アカデミー賞国際長編映画賞ロシア代表作品。
  • 映画評論家

    上島春彦

    物量作戦で再現された終戦直後のソ連邦の光景に目がくらむ。またこれまでにも映画で見た記憶のある共同アパートメントのごった返しぶりも凄い。その一方で優雅なお城住まいの上流階級もいる。このギャップがテーマの一つ。そこのお坊っちゃんの思惑が今一つ不分明だが、だからこそ残酷なクライマックスを醸成するとも言える。祝福を期待した主人公が被る仕打ちが痛ましい。そこまでの彼女の行動規範に観客の共感を拒否するところもあるが映画最大のテーマがそこに潜んでいる。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    緑と赤の美しい色彩設計に、「キャロル」や「燃ゆる女の肖像」に連なる女性同士による傑出したクィア映画の系譜を看取する。原案となった『戦争は女の顔をしていない』がこれまで語られなかった戦時下の女たちの語りを女が聞き書きしている物語にあって、男性ジェンダーである監督が語ることのアポリアがそこには立ちはだかる。監督が何より自身の「女性性の発見」を目論んだという発言、入浴場や性交時の女の身体の描かれ方がそれに対する一つの解になりえるかもしれない。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    大戦ですべてをうしなってしまった女性ふたりによる、「その後」をめぐる物語である。好き嫌いは分かれるだろうが、「奇跡の海」を想起させる倫理的ジレンマと「サウルの息子」のごとく被写体の背後に貼りつくカメラが次第に人間を人間から引き離していき、人間ではない新しくも古い何かへと変身させていく。主人公たちがあまたの女性たちと入浴するシーンなどは、絶滅を運命づけられた未知の生物たちによる最後の晩餐のようで、その圧倒的な虚無感と時代性には寒気がした。

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