義足のボクサー GENSAN PUNCHの映画専門家レビュー一覧

義足のボクサー GENSAN PUNCH

義足の日本人がフィリピンでプロボクサーを目指す実話を映画化。幼少期に右膝下を失った尚生は、義足でプロボクサーを目指してたが、日本では身体条件の規定に沿わないと却下される。そこで、義足でも条件を満たせばプロボクサーになれるフィリピンに向かう。監督は、「キナタイ マニラ・アンダーグラウンド」で第62回カンヌ国際映画祭監督賞を受賞したフィリピンの巨匠ブリランテ・メンドーサ。出演は、「ハブと拳骨」の尚玄、「映画 おそ松さん」の南果歩。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    ブリランテ・メンドーサ監督は、4年前に東京国際映画祭の審査委員長を務めた際、映画祭での賞の対象はアート系作品に限るべきという趣旨の発言をしていたが、それで言うなら本作こそ賞の対象にはなり得ない、題材と物語に感傷的に寄り添った類型的な実話ベースの娯楽映画そのものだ。フィリピンの監督が日本資本で映画を撮る際に題材としてボクシングを取り上げるのには必然性があり、ドキュメンタリータッチのアプローチも手慣れたものだが、そこに新鮮さはまったく見当たらない。

  • 映画評論家

    北川れい子

    「ローサは密告された」ほか、常に社会の不条理に翻弄される人々に寄り添ってきた 過去のメンドーサ作品に比べると、この作品、いささか肩透かし。プロボクサーを目指してフィリピンのジムに身を寄せた沖縄の義足のボクサー。トレーナーやジムの仲間たちのオープンな雰囲気や、丁寧な練習風景は説得力があるが、主人公がアマチュア戦で勝ち進んでの真相がほろ苦く、前のめりでプロを夢見た主人公はもう前に進めない。告発ものとは異なる人情譚仕立てだが、やるせなさは否めない。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    尚玄が全瞬間かっこいい。特に、ボクサーとして闘う意志がこんな形でまた邪魔されるのかという、味方による八百長に傷つく姿の嘆きと高潔。ジョン・ヒューストンのボクシング映画「ゴングなき戦い」で主人公が思いがけず快勝する相手は実は病人という設定で、そのことは映画の観客のほか登場人物の誰もわからず、ゆえに偽りの勝利の後に主人公は没落してゆくが、本作にはそういう不純や甘えを潰してゆく戦いがある。メンドーサ監督の現代映画的演出と撮影も物語と一致している。

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