息子の面影の映画専門家レビュー一覧

息子の面影

2020年サンダンス映画祭ワールドシネマドラマティックコンペティション部門審査員特別賞および観客賞に輝いた人間ドラマ。メキシコの貧しい村からアメリカに渡ろうとして消息を絶った息子を探すマグダレーナは、母を探す青年ミゲルと出会い、旅を共にする。監督は、本作が初長編のフェルナンダ・バラデス。ドラマ『そして私たちは』などメキシコで活躍するメルセデス・エルナンデスが、息子の足跡を追う母マグダレーナを演じる。2020年ロカルノ国際映画祭観客賞、2021年ゴッサム・インディペンデント映画祭外国語映画賞、2020年ロカルノ国際映画祭観客賞など多数受賞。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    目の前に車が止まっていて、そこから覆面の男がやってくる。じっと耐える主人公の女の人。緊張感がハンパない。メキシコの国境近くってこんな怖い場所なのか。母親にとって子どもが死ぬことがどんなにショックなことか。想像するだけで泣けてくる。意地になって息子を探し回る女の人の抑えた表情が忘れられない。息子みたいな男の子とのつかの間の交流。唯一ホッとする時間。うまくいけばいいと願わずにおれない。無残なラストが何もかもぶっ飛ばす。凄いとしか言えない。

  • 文筆家/女優

    唾蓮みどり

    ほの暗い画面の中から見つめてくる母親の表情が、常にこちらに向かって先の見えない不安を問いかけてくるようで、ずっと緊張しながら観ていた。行方不明の息子を探すのに藁をも?むような気持ちで手がかりを辿るものの、少しも解決に向かっていないかのような息苦しさが続く。捜索の旅の途中で出会う青年との出会いのなかで、一緒に住もうと提案するときの諦めにも近い表情に惹きつけられた。再会は単なる希望ではなく、閑散とした道はどこまでも長く、暗い夜道の寂しさに息を飲む。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    見せなくてもいいものを見せる。その点に疑問が残る。たとえば序盤で一方の母親が息子の遺体写真を見せられ泣き崩れるくだり。彼女が何を見たかはその反応だけで伝わるので、写真をスクリーンに映す必要はない。作劇上の役割がすでになくなった段階で見せられる。だから、その遺体写真はなおさら露悪的に映る。あるいは逆にいうなら、見せるべき大事なものが、作劇の論理上不要なものとされている。惨劇の様子を語るインディヘナの老人もしかり。この流れでは声だけで十分。

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