イントロダクションの映画専門家レビュー一覧

イントロダクション

ベルリン国際映画祭銀熊賞(脚本賞)を受賞したホン・サンス監督の長編25本目作品。韓国とベルリンを舞台に、モラトリアムをさまよう青年の、思い通りにいかない人生の痛みと愛おしさが、前作「逃げた女」の変奏バージョンのごとき3章構成とモノクロームで描かれる青春映画。主人公のヨンホを演じるのは、ホン・サンスが教授として在籍する建国大学映画芸術学部で学ぶシン・ソクホ。監督の「正しい日 間違えた日」(15年)にスタッフとして参加以来、幾つかの作品に出演、本作で初主演を飾った。ヨンホの恋人ジュウォン役のパク・ミソも監督のもとで学んだ女優である。第1章はソウルの雪の季節に、第2章は「逃げた女」でベルリン国際映画祭に参加しているときに、第3章は帰国後に韓国の東海で撮影された。「INTRODUCTION(イントロダクション)」の言葉が持つ「紹介」「序文」「入門」「導入」といった多様なエッセンスが内包された3つのエピソードは一見、時系列順に並んでいるようにも見えるが、そうでないようにも見え、主人公の三つの“再会”と三つの“抱擁”が各話を繋いでいく。ホン監督の公私にわたるパートナーであり、「夜の浜辺でひとり」(17)によってベルリン国際映画祭主演女優賞(銀熊賞)を受賞したキム・ミニがベルリン在住の画家役で参加したほか、ソ・ヨンファ、キ・ジュボン、チョ・ユニなど、ホン作品の常連俳優が顔を揃えた。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    酒を飲むシーンがやたらおもろい。酔っ払って、グダグダになっていくのが、笑える。たわいない話の連続。描写はシンプルでそっけない。描かれない部分を想像しながら見ていくのは、面白かった。隙間を自分で埋めていく楽しみがある。不意に抱きしめるシーンがあって、心を揺さぶられた。何気ない芝居にグッとくるのは、緻密な計算があるからだろうと思う。カメラが突然カクカクと寄ったり引いたりするの、アレなんだろう。よくわからないけど、なんか面白い。

  • 文筆家/女優

    唾蓮みどり

    映画を見ながら「見えない、描かれていない」部分を想像するのは楽しいことである。だからこそ、何を見せるのかについて作り手の力量が問われる。何を映すか。何を語らせるのか。本作は切りはりのイメージを超えることはなく綿密に練られた脚本だとは到底思えない。とはいえ、ベルリン国際映画祭で脚本賞受賞とのこと。あくまで出演している役者たちのための映画なのだと感じた。映画が不親切であることはむしろ大歓迎なのだが、もっと挑発してほしいと感じた。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    前作「逃げた女」(20)では同じ話が繰り返されたが、今回繰り返されるのは「身振り」である。「抱きしめる」という身振りの変奏というわけだ。主人公はそのつど違う人物を抱きしめるのだが、最後に待っているのは彼が「抱きしめられる」瞬間である。つまり、1つの身振りの変奏の中に、その身振りを「される」ことまで含めるのが本作の主眼といえる。抱きしめられることなく、誰かを抱きしめることはできないからだ。なおS・ソクホは次作「あなたの顔の前に」にも抱擁の人として現れる。

1 - 3件表示/全3件