線は、僕を描くの映画専門家レビュー一覧

線は、僕を描く

2019年TBS「王様のブランチ」BOOK大賞を受賞した砥上裕將の青春芸術小説を、「ちはやふる」シリーズの小泉徳宏監督ら製作チームが映画化。深い悲しみの中にあった霜介は、水墨画と出会い、巨匠・篠田湖山の元で学ぶうちに、彼の止まっていた時間が動き出す。日本を代表する水墨画家・小林東雲が水墨画監修を担当。水墨画に魅了される大学生・青山霜介を「アキラとあきら」の横浜流星が、霜介を弟子として迎え入れる篠田湖山を「葛城事件」の三浦友和が演じる他、「護られなかった者たちへ」の清原果耶、「天空の蜂」の江口洋介ら豪華出演陣が揃う。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    スポーツでも芸術でも才能の開花に必要なのは、昭和の漫画のようなシゴキやライバル同士の足の引っ張り合いなどの逆境ではなく、正しいタイミングで正しい場所にいること、つまり才能を高め合う仲間との出会いにある。そんな自明の事実を、小泉徳宏監督は「ちはやふる」三部作に続いて問答無用の説得力で描く。光や風や音の効果で、静的な「競技」に映画的カタルシスを生み出す演出法もさらに研ぎ澄まされている。横浜流星と清原果耶にとって、10年後にも誇れる代表作となるだろう。

  • 映画評論家

    北川れい子

    一見静謐なイメージがある水墨画を、映像パフォーマンスで鮮やかに立体化した小泉監督と技術スタッフに感心する。まっ白な紙には無限の可能性がある、という台詞があるが、主人公を白紙に見立てた墨すりからの展開は、スポ根ドラマに近い要素やエピソードもあり、しかも普遍的。師匠以下、どの人物にもお茶目なぬくもりがあるのも粋で、けれども芯はピーン。特に江口洋介のキャラ。水墨画によるラストのクレジットのパフォーマンスも遊びがあり、アートと青春、まさに絵になる。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    三浦友和の分厚さ。横浜流星の清潔さ。江口洋介の渋さ、特に彼の役柄が浮上するところの鮮やかさ。好感をもって観た。表現関係の教育について。私が用務員のおじさんみたいなことをしていた映画学校の誠実さを湛えた裏標語は「教えられるのは技術だけ」だったし、それは自分がのちに映画ライター講座の講師をやったときにもっとはっきり「発想、創意、根本の熱は教えられない。教えるべきではない。本人が発見する以外ない」と実感された。本作にはそういうことが描かれている。

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