鬼が笑うの映画専門家レビュー一覧

鬼が笑う

外国人技能実習生問題や日本社会の差別と偏見という現実を描き、数々の映画祭にノミネートされたドラマ。家族を暴力から守るため父を殺し、社会復帰を目指していた一馬は生きる希望を失っていた。ある日、職場の工場で外国人労働者へのいじめに巻き込まれる。兄の三野龍一が監督、弟の三野和比古が脚本を担当する映画制作ユニット、MINO Bros.が長編デビュー作「老人ファーム」に続いて手掛けた2作目。出演は、「老人ファーム」の半田周平、「由宇子の天秤」の梅田誠弘。第26回ソフィア国際映画祭OUT OF COMPETITION部門選出、第25回タリン・ブラックナイト映画祭メインコンペティション部門ノミネート、第18回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭国際コンペティション部門ノミネート。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    スクラップ工場に務める労働者、忍び寄る新興宗教と、たまたま公開中の「夜を走る」と設定やモチーフがかぶっているが、主人公から聖性(どころか人間性も)をとことん剥ぎ取っていた「夜を走る」と比べると、本作の主人公のキャラクターは古典的すぎていささか退屈だ。展開も予想の範囲に収まるものの、カタストロフィに至るまでの各登場人物の心の動きや、過酷な生活の中でも小さな幸福が訪れる瞬間の描写など、演出は丁寧で緩急も巧み。社長役岡田義徳の好演が強く印象に残った。

  • 映画評論家

    北川れい子

    家庭内暴力に親殺し、いじめに差別に貧困、搾取、もう嫌になるほど見たり聞いたりしているこれらの話やエピソードを、まるで自分たちが初めて取り上げるかのように、というか、さも身近な現実であるかのように描きだそうとする三野兄弟の、その若さと野心に煙たくなった。おまけに絵に描いたように胡散臭いカルト宗教まで登場、しかも一切救いのない展開。悲惨な話を描くにはそれなりの覚悟が必要だと思うが、ここではあくまでも映画ネタ、終盤のスタンドプレーでそれがありあり。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    もっと主人公は容易に行動を起こせばいいし終幕でも背負いすぎとは思うが、先頃公開された「夜を走る」にも通じる日本の労働現場における人心の荒廃の的確な描写はよかった。映像と演出が澄んでいる。最近秋葉原殺傷事件犯人の同僚だったという方の発信を知ったが、そこには犯人個人の問題プラス、みんなおかしくなるような場がある、ということが示されていた。お前死んでいいよと発する者あらば、そいつと、黙認する者も死ぬのが道理。それはあまり皆が自覚せぬ日本の実態だ。

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