こちらあみ子の映画専門家レビュー一覧

こちらあみ子

『むらさきのスカートの女』で芥川賞を受賞した今村夏子が第26回太宰治賞&第24回三島由紀夫賞を獲得したデビュー作を、オール広島ロケで映画化。少し風変わりな小学5年生のあみ子。彼女のあまりに純真無垢な行動が、周囲の人たちを否応なしに変えていく。監督は、大森立嗣監督作「タロウのバカ」などで助監督を務めてきた森井勇佑。本作で監督デビューを果たした。主人公のあみ子はオーディションで選ばれた大沢一菜が演じ、父役で「劇場版 殺意の道程」の井浦新が、母役で「茜色に焼かれる」の尾野真千子が出演。滑稽でいてどこか愛おしい人間たちの有り様を描く。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    悪くない映画だと思う。これがデビュー作なんて大したものだ。無垢過ぎる少女の逸脱を描くことで、多様性多様性という社会がどこまで異物を許容できるかというテーマもいい。少女を演じられる役者を見つけ、あそこまで演出できるなんて。傑作だと言う人もいるだろう。でも何でだろう。「お引越し」が心に響いたようには響かない。相米さんと違って、少女の心に迫るのではなく、少女を俯瞰して理解しようとしているからか。偏差値の高い映画だが、それが映画的感動を遠ざけていないか。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    画面に力があり、ワンシーンワンショット撮影に引き込まれた。例えば病院から一旦戻った父が去り、あみ子が「赤ちゃんは?」と問うと兄が「どこにもおらん」と答える玄関のショット。あるいはあみ子が作った墓標を見た母が嗚咽し、帰ってきた父が連れ出す庭のショット。新しい母親を迎えた家庭の崩壊という世俗的な物語の傍らに、マイペースで超然としながらも真の繊細さを内に秘めたあみ子の世界がある。そんな物語世界を森井監督が一つ一つのショットの中に具現化している。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    不意にホラーな影に支配されていく日常を、小学生から中学生になる少女の視座で、メルヘンの要素も絡めて映すならば、他者の心も自己流に解釈して奔放な言動を繰り返すあみ子を、“おかしな子ども”と認識させてしまうのは、演出上マイナスに思える。惚れ抜く新星に敢えて演技をさせず、特異な存在感だけで押しきった制作陣の賭けは、吉か凶か。何かとちょっかいを出す一方、鋭い観察眼ももつ坊主頭の少年の存在が救いで、天性の野生児の乙女な一面を引き出すのにも貢献している。

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