ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行の映画専門家レビュー一覧

ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行

    映画を取り巻く環境や表現手法が劇的に変わった2010~2021年の12年間にスポットをあて、既成概念に囚われない革新的な映像表現を実践した映画111本を厳選し、〈映画言語の拡張〉〈我々は何を探ってきたのか〉という2部構成で検証していくドキュメンタリー。監督は毎日欠かさず新たな映画を視聴し、これまで1万6,000本以上を鑑賞した映画オタクの英国人マーク・カズンズ。ハリウッド・メジャー大作からアートハウス系、知られざる日本未公開作品まで、多種多様なジャンルとテーマを取り上げる。「映画をもっと深く知りたい」「未知の映画を発見したい」と願うすべての観客を壮大な冒険旅行へと誘う“フィルム・ドキュメンタリー”。
    • 映画評論家

      上島春彦

      映画は本来劇場で見るものではあるが、こうした映画引用映画というジャンルはコンピュータ画面で見ても面白い。かつてスコセッシ監督が作った「アメリカ映画史」と「イタリア映画史」でもそう思った。史観が私感でもある巧妙さ。高飛車じゃなく親密さが鍵。文脈をどう外し、組み替えるか、という方法論の繊細化を見てほしい。読み替えは違う切り口でも可能で、むしろそれを勧められていることになる。とはいえ知らない映画ばかりで焦る。でも「リヴァイアサン」は傑作だったな。

    • 映画執筆家

      児玉美月

      無秩序と解放を謳う「ジョーカー」と「アナと雪の女王」、夢へといざなうアピチャッポンの「光の墓」を引き連れて手堅く幕を開けたこの映画史エッセイは、近年の現代映画を周遊しながら古典映画も再発見せんとする歴史性を重んじた思想が作品選びの底流にも一貫してある。「XXY?性の意思」や「アッテンバーグ」の引用に驚き、パンデミックにおいていかに映画と向き合ったかに共感し、尽きぬ映画愛に感動した。教科書的でありながら独創的でもあり、後世へと継いでいくべき労作。

    • 映画監督

      宮崎大祐

      本作はドキュメンタリーというよりも、作者による極私的な2010年代映画史であり、エッセイ映画もとい「批評映画」という新たなジャンルと言える。もともと紙媒体から出発した批評なるものが、2000年前後を境にブログやSNSといったネット空間上に散在するようになり、映画批評に至っては今やその主戦場をYouTube上のビデオ・エッセイに移しているという流れを鑑みると、「批評映画」である本作は批評史と映画史の両面において歴史的意義を有しているのかもしれない。

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