ヨナグニ 旅立ちの島の映画専門家レビュー一覧

ヨナグニ 旅立ちの島

沖縄県与那国島には高校がなく、子供たちは中学卒業とともに島を離れることになる。豊かな自然と伝統に彩られた「国境の島」に生き、やがて故郷を去る中学3年生たちの1年に、授業や部活、放課後を通して密着したドキュメンタリー。欧州の気鋭の監督アヌシュ・ハムゼヒアンとヴィットーリオ・モルタロッティは、人口1500人ほどの島で今や300人ほどしか話せなくなった島の言葉「どぅなん」に着目。言語を保存することや、その消失を撮影することは、アイデンティティの混乱と戦うことを意味し、必要不可欠な行為だとして、子供たちの人生の一時に寄り添った。2021年東京映画祭長編部門ノミネート。新宿K’s cinema、吉祥寺アップリンク他で全国順次ロードショーされる「沖縄本土復帰50周年映画特集」で、「ばちらぬん」と共に上映。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    与那国島には高校がないんやと初めて知る。馬と戯れる女の子の凜とした表情が忘れられない。美しい。彼女は男の子に間違われた話をポツポツと母親に話す。中学生たちの学校帰りのたわいもない話。飛行場を見ながら、CAのアナウンスのモノマネをするのが面白かった。笑って、笑って、ずっと見ていた。この子らは、高校を他の場所で暮らす。ほとんどが帰ってこないのだろう。忘れ去られる人たち。忘れ去られる風景。どこかであの子らに会ったことがあるような気になった。

  • 文筆家/女優

    唾蓮みどり

    聞きなれない言葉の音に導かれて、行ったことのないこの島に降り立っている。まるで目の前で起こっているかのように感じさせるこの距離感。子ども達がただしゃべっていたり、ふざけあっていたり、遊んでいたりするシーンがとにかく素晴らしいのだ。一方で、映し出される与那国の詩的な風景にも心を?まれてゆく。必ず訪れる小さなお別れを繰り返し、子ども達はほんの少し大人になってゆくのだろう。自分のルーツを誇りに思えることは素晴らしいことであると同時に、羨ましいと思った。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    島からは固有の言語がなくなろうとしている。毎年、中学を卒業した少年少女が進学のために島を離れる。しかしこの映画には「消滅」と「出発」のイメージだけがあるのではない。夜、暗いなかに馬が出現し、ふと画面を通り過ぎるショット。それは昼の時間が終わり、馬が一人で小屋へと戻る姿だ。あるいは、休暇を利用して都市から島に戻ってきた少女。彼女は馬に乗って丘に登り、飛び立っていく飛行機を見送る。「帰還」と「出発」を縦の構図の中で交錯させる美しいイメージだった。

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