月の満ち欠けの映画専門家レビュー一覧

月の満ち欠け

第157回直木賞を受賞した、佐藤正午のベストセラー小説を大泉洋主演で映画化。妻の梢と娘の瑠璃を不慮の事故で失い悲しみに沈む小山内堅のもとに、三角という男が娘の瑠璃はかつて自分が愛した女性の生まれ変わりではないかと訪ねてきて……。監督は「母性」の廣木隆一。小山内の妻・梢を柴咲コウ、娘と同じ名を持つ“瑠璃”という女性を有村架純、小山内を訪ねる三角を目黒蓮が演じるほか、伊藤沙莉、田中圭など実力派キャストが出演。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    登場人物全員が思っていることを全部口にして、しかもその台詞がことごとく紋切り型のフレーズばかり。大衆向けメロドラマとはいえ、ここまで稚拙なナラティブの作品は今どきテレビドラマでも滅多にお目にかかれない。高い使用料を払ったはずのジョン・レノンの曲を台無しにする他の選曲と使い方。モブだけでなく主要人物の服装まで詰めの甘い時代考証。以前から廣木隆一作品の欠点は作家性の欠如以前の固有の審美眼の欠如だと思ってきたが、本作にはそれが最も悪いかたちで出ている。

  • 映画評論家

    北川れい子

    それにしても頻繁に変わる時間軸にはかなり戸惑う。そして前世の記憶を持って生まれた女の子の、その記憶に操られた奇妙な言動。そもそも前世のパートに当たる有村架純のキャラクターからして誰かの記憶を背負っているようにぎこちなく、彼女の恋にしても、生まれかわってまで結ばれたくなるような重量感はない。とは言え、いくつもの具体的な記憶の因縁は強引なりにミステリアスで、廣木演出も迷いがない。我が地元で、かつて何度も通った早稲田松竹の登場にはニンマリ。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    恋愛映画に寄せた「オードリー・ローズ」。転生はポジティブな奇跡か、愛を追う執念か。その発端にゾッとするような男による女の抑圧があり。田中圭が演じるキャラがすごい。あれで、前世の記憶? という抵抗感はぶっ飛ぶ。男側ばかり愛され設定はキモいが。そして有村架純さんは今こんな、学生下宿に来る人妻役とかになったのか。有村架純史上最高。あとディテール的に同時録音は考証ミスか嘘ながらあの8ミリ撮影は沁みた。女性を8ミリで撮ることの素晴らしさを思い出す。

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