山歌の映画専門家レビュー一覧

山歌

「馬ありて」の笹谷遼平監督が伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞2018中編の部大賞を受賞した脚本(旧題「黄金」)を映像化した人間ドラマ。1965年、祖母の家がある田舎に帰った中学生の則夫は、山から山へ漂泊の旅を続けるサンカの家族と出会い、惹かれていく。かつて日本の山に実在した戸籍も財産も持たない放浪の民・山窩(サンカ)をモチーフにしている。孤独な少年・則夫を「半世界」の杉田雷麟が、サンカ一家の長・省三を「酔うと化け物になる父がつらい」の渋川清彦が演じる。第17回大阪アジアン映画祭(OAFF2022)インディ・フォーラム部門正式招待作品。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    半径1メートルしか描けない映画が大多数の中、サンカを描こうとする心意気や良し。撮影の大変さも画に表れている。だからこそもう少しシナリオで頑張って欲しかった。サンカになれなかった少年の話というなら、現実逃避から山へという消極的理由から意識的に現代社会に背を向けるという積極的理由への転換点を描くべき。サンカの少女に「私たちを下に見てる」と言われた時こそ、チャンスだったのに。ちゃんとシナリオを読めるプロデューサーはいないのか。サンカのリアリティは不問。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    山窩の暮らしという主題から近代日本に揺さぶりをかけようという監督の挑戦には敬意を表したい。ただ難しい題材だ。山窩たちがどんなふうに話したのか、どんなふうにふるまったのか。ぼくらはよく知らない。一方で、彼らが接触する里は1965年の日本のどこかの山村ということなのだが、そもそもこれにリアリティーがない。誰もが今風の標準語をしゃべっているし、当時の生活の臭いを伝える事物はほとんど映らない。主題が壮大なだけに、画面の貧しさが際立ってしまう。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    東京五輪翌年の高度経済成長期を背景に、日本各地の山を転々と渡り歩いてきた、流浪の民が迎える転機。“ゴルフ場建設予定地”の看板や、主人公のステレオタイプの威圧的な父親の説明台詞だけでは、特異な時代性を表現するには不十分ではないか。環境映像のごとき自然の様相にも、安定した美しさはあるものの、常に変化する厳しさとも格闘しつつ、山の民が長く暮らしを営み、都会っ子の少年までも魅了してしまう、生活空間としての趣や奥行きのようなものが欠落して感じられた。

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