森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民の映画専門家レビュー一覧

森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民

タイやラオスの密林の中を遊動し狩猟採集生活を送ってきた少数民族ムラブリ族を、言語学者の伊藤雄馬とともに約2年間追ったドキュメンタリー。人食い伝説により互いの集団を恐れる様や、昔ながらの遊動民の暮らしを記録し、現代の森の民が抱える問題を映す。監督は、「ムネオイズム ~愛と狂騒の13日間~」などを手がけた映像作家・批評家の金子遊。東京ドキュメンタリー映画祭2019・2021上映作品。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    ここで取り上げる映画は何の情報もなしに観る。プレスも何も読まない。本作もそうして観始めた。最初、何の映画か分からない。人喰い族を探す映画かと思う。やがてムラブリという400人程度しかいない民族を初めてカメラに収めた映画だと分かる。彼らはタイとラオスの森深く3つに別れている。仲違いが原因だが、そこに国境という恣意的なものが見える。ナレーションを入れればもっと見易く面白くなったろう。映画とは何か考える。本誌前号の特集を読んでから観ることをお勧めする。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    ラオスの奥地のムラブリ族の子供たちに、日本の学者がスマホで撮った彼らの映像を見せているシーンに軽い衝撃を受けた。ジャン・ルーシュがアフリカのドゴン族を撮って、フィルムをその集落で上映して見せたという行為が、今は即時に片手でできるのだ。それは映像人類学の可能性をさらに開くものだとポジティブにとらえたい。今も森で暮らす狩猟民の夫婦喧嘩がリアルに撮られているのにもびっくり。夫婦とは、家族とは、部族とは。社会の諸原理を考えさせられた。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    ほぼ姿を見せない少数民族の生活の撮影に初めて成功したとのことだが、殊更に希少性や特異性を強調しない、アットホームな空気がいい。その立役者で、コミュニティに溶け込む言語学者の伊藤雄馬氏の柔らかな佇まいが、おどろおどろしい伝承を噺家のごとく披露する男性の名調子や、不在がちで追い出した旦那に未練も覗かせる女房のツンデレな愛らしさなどを、絶妙に引き出す。無文字社会ゆえ互いに無知だった、タイとラオスのムラブリ族の初対面シーンには、グッとくるものがあった。

1 - 3件表示/全3件