牛久の映画専門家レビュー一覧

牛久

茨城県牛久市にある東日本入国管理センター、通称『牛久』に収容された人々の助けを求める声を1年半に渡って記録したドキュメンタリー。施設が定める厳しい規制を潜り抜け、“隠し撮り”で制作された本作を通じて、観客は収容者と対面することになる。「撮影の制約自体を映画的な形式に用い、観客をその現実に参加せざるをえなくすることで、ドキュメンタリーの力を示した」として、2021年9月の韓国DMZ映画祭でアジア部門最優秀賞を受賞した。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    茨城の東日本入国管理センターの目と鼻の先には世界最大のブロンズ立像、牛久大仏がある。日本の閉鎖性や不気味さを対外的に強調するには絶好の被写体だと思うが、本作は海外のドキュメンタリー映画では良くも悪くも駆使されるそうしたイメージ演出を排除し、隠し撮り映像を軸にして日本国家への怨嗟をストイックに連ねていく。その告発が重要なものであることに異論はないが、いくらでも動画プラットフォームがある現在、この品質の映像を劇場でかける意義はどこにあるのだろう?

  • 映画評論家

    北川れい子

    ちょっと話が逸れるが、茨城県牛久には『橋のない川』で知られる住井すゑの文学館があり、以前訪ねたことがある。自由、平等を強く念じた住井すゑ。その牛久に、刑務所そっくりの入管収容所があるとはこのドキュメンタリーで初めて知った。その実態も。とはいえこのドキュ、かなり乱暴で一方的。隠し撮りの是非はともかく、収容されている人たちの話を鵜呑みにするだけでその人物の情報は本人の弁のみ。人権を無視する入管法は酷いとしか言い様がないが、取材が偏り過ぎる。

  • 映画文筆系フリーライター

    千浦僚

    私は本作の中心的な人物のデニズ氏の会見、その活動が描かれた石川大我議員が事務局長の「難民問題に関する議員懇談会」、本作より少し後の時期の名古屋入管収容所における死亡事件に関する上川陽子法務大臣質疑応答を取材したことがあるが、この問題は日本が、身元不安定なまま入国しようとする人間をとりあえず罪人と見なすという錯誤に由来すると考える。これは絶対に改められるべきこと。また本作の隠し撮り場面には観る者の今後のリアリティ基準を変えるものがあった。

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