ニトラム NITRAMの映画専門家レビュー一覧

ニトラム NITRAM

1996年、オーストラリアの観光地で起きた無差別銃乱射事件を「アサシン クリード」のジャスティン・カーゼル監督が映画化。周囲に馴染めないニトラムはある日、引きこもりの女性ヘレンと出会う。だが2人の関係は悲劇的な結末を迎え、彼の精神は歪み始めてゆく。「アウトポスト」のケイレブ・ランドリー・ジョーンズが、本作で第74回カンヌ国際映画祭 主演男優賞を受賞。共演は「天才スピヴェット」のジュディ・デイヴィス、「ババドック 暗闇の魔物」のエッシー・デイヴィス。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    例えば「ジョーカー」における貧困や女性関係のようなわかりやすい理由を用意することも、その逆に狂気を過度に神秘化することもなく、演出を加えつつも殺人犯の心理にあくまでも些細な事実の積み重ねから徐々に肉薄しようとする姿勢には、ある種の倫理と節度が宿っているだろう。ニトラムの暴力や男性性をめぐる逡巡は、誰が見ても凄まじいジョーンズの演技とともに犯行の原因へと安易に還元されない形で表現されることで、かえって不気味に強烈なリアリティを伴って伝わってくる。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    花火や車のクラクション、蜂の羽音に犬の鳴き声といった騒音は緻密に設計され、ポートアーサー事件の犯人、通称ニトラムを取り囲んでいる。それらの音は、明確な意味を形成せず不愉快な音として適切なコミュニケーションを結べず、最後まで理解不能なものとして演出されている。大量殺人の前夜の母との最後の晩餐にまで、和解や救いを示すことなく不愉快な虫の羽音だけを残すこの映画は、最終的には乱射される銃声ではなく、タスマニア島の自然の音を響かせることを選ぶのだった。

  • 文筆業

    八幡橙

    銃こそ容易に手にできないものの、日本でも他人事ではない、巻き込み型無差別殺人。実在の事件を基に“その瞬間”までの犯人の内なる心の微動を丹念に見つめた映画だ。監督の冷静かつ客観的な視点が、終始やりきれないひりひりと、理不尽への絶望を観る者にもたらす。見せる・見せないの塩梅や、主人公と両親、近隣に住む孤独な女など各人の人物造形も巧みで、俳優陣の鬼気迫る演技と共に脳裏に焼き付く。「皆、絶望的な気持ちで毎日過ごしている」という台詞に、現代の憂鬱を重ねた。

1 - 3件表示/全3件

今日は映画何の日?

注目記事