親密な他人の映画専門家レビュー一覧

親密な他人

コロナ禍の東京を舞台にした心理スリラー。シングルマザーの恵は、一年前から行方不明の息子・心平の帰りを待ち続けている。そんなある日、心平の消息を知っているという青年・雄二が現れる。やがてふたりは親子のような恋人のような不思議な関係になってゆく。出演は「冷たい熱帯魚」の黒沢あすか、「彼女が好きなものは」の神尾楓珠。監督・脚本を「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」の中村真夕が務める。第34回東京国際映画祭Nippon Cinema Now正式招待作品。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    本作に限らずだが、この平坦さは何だろう。短篇アイデアを長篇にする肉付けも掘り下げもない。幼子を亡くした女は最初の殺しまでどう生きてきたのか。他に殺しているのか。そのキッカケは? 狂気を狂気として描くのではなく、一縷の共感を探さないと。少年然り。「たまに圧力鍋の中にいるみたいな気持ちになる」と女が言った直後に笛吹きケトルが鳴る。こういう台詞と描写を何度観てきたことか。自分にしか撮れない映画が作れるかという恐怖はないのだろうか。それが一番のスリラー。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    「ハリヨの夏」で父と娘の関係を撮った中村真夕が、母と息子の関係を撮った。しかもノスタルジックな青春映画から一転、緊迫感のあるサスペンスとして。黒沢あすかの不定形な魅力を引き出し、その年齢でしかもちえない艶やかさを生かしている。もともときれいな人でプロポーションも抜群なのだが、後ろ姿の背中のかすかな丸みなどが、ぞくぞくするほどすてきだ。オレオレ詐欺の青年をからめとるアパートという密室、鏡を多用した演出がサスペンスの恐怖を大いに盛り上げる。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    未だに根絶するのが難しいオレオレ詐欺の背景に潜む、母親と息子特有の一筋縄ではいかないしがらみを、シニカルな心理ドラマに昇華させた異色作。冒頭から既に、ただならぬ妖しさを醸し出す黒沢あすかが、行き場を失った母性に囚われて狂わされていく女性の業を力演。いつかは親元を離れる子どもと羽ばたく鳥とを重ね、巣立ちの後も何かを待ちわびるように、ぶら下げられたままの空っぽの鳥かごが、寂しげなモチーフから恐怖の暗示にも見えてくる、ぞわっと戦慄走るスリラー。

1 - 3件表示/全3件