白い牛のバラッドの映画専門家レビュー一覧

白い牛のバラッド

第71回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に正式出品されたイランの人間ドラマ。夫が死刑に処せられ、ろうあの娘を一人で育てるミナは、裁判所から夫の無実を明かされる。謝罪を求める彼女の前に、夫の友人というレザが現れ、親切な彼と親しくなるが……。ベタシュ・サナイハと共にメガホンを取ったマリヤム・モガッダムが、夫を冤罪で失ったシングルマザーのミナ役で主演。死刑執行数世界2位のイランの法制度を背景に、社会の不条理と人間の闇を炙り出す。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    死刑制度、女性差別的な制度や慣習といったイラン特有の問題を扱いつつも、それぞれの喪失と向き合ってなんとか生き抜こうとする、どこか「ドライブ・マイ・カー」を想起させもするミナとレザの姿を捉える本作の視線は間違いなく普遍的なものでもある。言葉よりも表情や身振りで多くを語る俳優陣の演技、ある秘密が駆動するプロットの見事さに加え、刑務所の中庭に佇む雌牛を捉えた鮮烈なショットや、室内撮影における扉や窓の開閉をめぐる簡潔かつ的確な演出も見逃せない。必見!

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    許しを乞わなければならない相手に自らの立場を偽ったまま交流を持ってしまい、関係が深まってしまうという展開自体は贖罪ものの定番の形ではあれど、綿密に構成されたカット割とフレーミングが映画を極めて端正で知的なものにしている。映画が動き出す瞬間に、意志も持ったかのように動き出す緊張感あふれるカメラの運動に、映す顔と映さない顔の的確な選択、話者と聞き手を並列に置く手話での会話ショットから決定的な断絶を律儀に捉えるカットバックに至るまで実にお見事。

  • 文筆業

    八幡橙

    悲痛と不穏が凄まじい濃度で満ちる、緊密な映画だ。白い牛が刑務所の中庭に心許なげに佇む画を筆頭に、計算され尽くした余白とひゅうひゅうと心ざわつかせるすきま風、聾?の娘の力強い目が、日常に息づくぽっかり空いた不条理の間を思い知らせる。死刑制度の持つ闇、冤罪の重さ、イランという国で女性が一人で子供を育てることの途方もない厳しさ、贖罪を巡る永遠の問い――。「別離」のアスガー・ファルハディに次ぐ才気と謳われる監督・主演のマリヤム・モガッダムに刮目、脱帽。

1 - 3件表示/全3件