ホテルアイリスの映画専門家レビュー一覧

ホテルアイリス

小川洋子による同名小説を「黒四角」の奥原浩志監督が映画化。寂れた海沿いのリゾート地。母親が経営するホテルを手伝うマリは、嵐の夜、階上で女に暴力と罵声を浴びせ立ち去る男に衝撃を受ける。やがて男とマリは愛と死の香りに満ちた禁断の世界に堕ちてゆく。出演は「隠し剣 鬼の爪」「茜色に焼かれる」などの永瀬正敏、台湾の新人、陸夏(ルシア)。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    脚色が違うと思った。夢と現、生と死、その境界や存在の曖昧さをやりたいならば、現や生をリアルにやってこそ、夢や死や存在の不確かさが際立つのでは。原作にないものを足すのではなく、原作で地の文でしか語られていない言葉を芝居にしないと。原作の疑い方が違うし。これじゃただの夢オチ。夢だから何でもアリとしか見えず、登場人物の誰にも寄り添えない。金門島ロケはいいが、日本語中国語混在も設定だけで生きていない。「ツィゴイネルワイゼン」という最良の教科書があるのに。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    現実世界の不確かさ、というものは奥原浩志の一貫したテーマなのだと思う。そういう点で原作者の小川洋子の感覚とよく響き合っている。台湾の海辺のホテルを舞台に、日本人俳優と台湾人俳優が入り交じる異郷のドラマに仕立てても、その世界観は揺るがない。原作のフォルムと奥原の視点に確固としたものがあるからだ。男と女の生の実感の根拠となるSM的なエロティシズム。それを一種無国籍的な乾いたタッチで描き出すのに、金門島という寂れたロケ地が大いに貢献している。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    舞台や時代を特定させず、陽と陰が交錯する物語のロケーションに、表情が刻一刻と変わる台湾の金門島の絶景はよく似合う。それだけに、疑似父娘風にも映る男女の倒錯的な性愛の行方を思わせぶりに覗き見させた挙句、丸ごと覆すかのような仕掛けを講じる選択は、文学を映画に落とし込む手法としてアリであれ、グロテスクさにも美を潜ませ、感覚に直にふれる原作の肝の部分も損ないかねず、疑問が残る。生と死の狭間に佇む、“海辺の何でも屋”的なリー・カーションが儲け役。

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