ブルー・バイユーの映画専門家レビュー一覧

ブルー・バイユー

「トワイライト」シリーズ出演のジャスティン・チョンが監督・脚本・主演を務めたドラマ。韓国で生まれ、3歳で養子として米国に連れてこられたアントニオは、30年以上前の義父母の手続きの不備で強制送還の危機に。家族と離れたくない彼はある決心をする。出演は、「リリーのすべて」のアリシア・ヴィキャンデル。2021年カンヌ国際映画祭ある視点部門正式出品作品。
  • 映画評論家

    上島春彦

    冒頭の沼地の美しさに呆然。ここに始まる水死の心象風景が映画理解の鍵としていい。大江健三郎って印象だが、もちろん偶然である。しかし、主要な舞台はアメリカ南部とはいえ、この沼には韓国の姿もダブル・イメージされている。澄んだアジアの水だ。国際養子で渡米した主人公(監督が演ずる)のアイデンティティ・クライシスを主題とした本作。その興味深さは即ち彼にとって水とは生なのか死なのか、判別つき難いところ。クライマックスに向けてはらはらが加速するのはそのせい。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    16㎜フィルムで撮影された映像はどの瞬間も美しいが、あまりに情緒過多なのはこの映画にとって得策だと思えない。エンドロールに実在の人物が流れ、不当な強制送還を余儀なくされている現実の養子問題を告発する主題にあって、製作過程で起きた問題のことも気にかかる。また、末期癌の女性など詰め込みすぎている脚本を削ぎ落としていればもっと重要な映画に仕上がったのでは。最後にお互いを「選んだ」のだと何度も伝え合う父と娘の血縁関係を超えた強い親子の絆は心に残った。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    ものの2~3時間でこの酷薄な世界を描写しきろうとすればするほど映画自体は表層的に、短絡的に暗転していくという映画表現の持つジレンマを感じた作品ではある。だが、ベタさが臨界点に達するタイミングで毎回炸裂する俳優陣の熱演と、制作者がアジアン・アメリカンとしての生の中で?み取ってきたのたであろう切実なリアリズムによって本作はギリギリの綱渡りに成功してゆき、最終的にはナルシシズムや説教臭さすら気にならない、特異な領域を確保している。

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