焼け跡クロニクルの映画専門家レビュー一覧

焼け跡クロニクル

    自宅が火事になるという身近な災害とゼロからの再起を、映画監督の原將人と妻の原まおりが記録したセルフ・ドキュメンタリー。焼け跡から救い出した8ミリフィルムに写っていた日常の記憶と被災後にスマートフォンで記録したデジタル映像を組み合わせ、過去と現在、未来をつなぎ、家族の歴史を紡いでいく。あの日あの時の、なんでもない日常の記憶が生きる力になってゆく。痛みの物語でありながら、包み込まれるような優しさと懐かしさに満ちあふれ、映画の力を見せてくれる。
    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      最新型iPhoneの売りは搭載カメラの「シネマティックモード」だ。そこでいう「シネマティック」の定義はさておき、この先、我々はますます様々なかたちで「映画らしきもの」を目にすることになるだろう。本作ではまるでそんな「シネマティック」以前のホームムービーの長い歴史に墓標を立てるかのように、文字通りの「焼け跡」から救い出されたフィルムと旧型iPhoneの映像が紡がれていく。評者のテイスト(私小説的アプローチが苦手)とは別に、その歴史的な意義はあるだろう。

    • 映画評論家

      北川れい子

      さすがドキュメンタリー作家の夫と妻。全てが焼失してもただではおかず、作家魂をメラメラ燃やして、その過程の逐一をモバイルで撮るとは。自然災害などと違って民家の火災は、その原因がどうあれ、周辺の人たちにも影響を及ぼし兼ねないのだが、本作はそんな世間体よりもまず家族と焼け残りのあれこれにカメラを向けるのだ。公民館で過ごす家族の表情。一見、プライベートフィルムにも思える作品だが、「クロニクル」というタイトルはともかく、ある家族の記録として普遍性がある。

    • 映画文筆系フリーライター

      千浦僚

      フィルム撮影。デジタルよりも有機的な感じのブツとしての映像、不可逆で限定的でそれゆえに撮影には緊張と瞬間を惜しむ思いがある。その重みがあり、個人のメディアではないとされていたフィルムを、個人的なペンとノートのように用いた映画作家たちがいる。それはスマホで日常的に映像が撮れることとも違い、その営為により作家たちはフィルム人間に変質した。「ヴィデオドローム」のヴィデオ人間的な。だから燃えたフィルムのように火傷した原將人監督にひたすら納得する。

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