冬薔薇(ふゆそうび)の映画専門家レビュー一覧

冬薔薇(ふゆそうび)

「半世界」の阪本順治監督が主演・伊藤健太郎をイメージして脚本を当て書きした人間ドラマ。ある港町。渡口淳は不良仲間とつるみ、他人から金をせびってはだらだらと暮らしていた。ある日仲間が何者かに襲われ、その犯人像に思いがけない人物が浮かび上がる。堕落した生活を送る淳を伊藤健太郎が、淳の両親を「深夜食堂」の小林薫と「ホテルローヤル」の余貴美子が、不良グループのリーダーを「泣き虫しょったんの奇跡」の永山絢斗が演じ、寄る辺ない者たちの物語を紡ぐ。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    阪本さんの描く半径1メートルの周りには無限の世界が広がっている。こんな小さな話をこんなに大きく撮るなんて。高低差激しい監督作群の中で今回は大当たり。若い脚本家、監督は全員観ろ。冬に咲く薔薇と違い、寒さに耐えて花開かせることを諦めたかのような各世代。アダルトは唯一の居場所を失い、ヤングが得る唯一の居場所は反社という地獄。セカンドチャンスを阻む不寛容な世の中を声高でなく撃つ。その役を伊藤健太郎が演じるというメタ構造。敗者復活のある世界たれ。頑張れ!

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    凡庸な映画に出てくる家族がいとも簡単にわかりあえるのと違って、現実の家族はなかなかわかりあえないし、うまくいかない。そんな、うまくいかない家族のリアリティーを、阪本順治監督が丁寧に掬い取っている。どうにもいかないもどかしさを、もどかしいままに描くところに誠実さを感じる。一人一人の人物を深く掘り下げていて、伊藤健太郎が演じる居場所のない青年の焦燥もよくでている。砂利や土砂を運ぶガット船という背景が表情豊かで、家族と職場の光景に血を通わせている。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    ひととのつながりや花咲かせられる居場所を求め続け、未来を思い描いては暗雲を招き寄せてしまう、悲喜こもごもの記録。我が子を扱いあぐねて途方に暮れる親や、道を踏み外してでも身勝手な復讐に執着するアウトローら、阪本順治監督作には馴染み深い、愛を伝える術を知らぬ不器用な人物の長短両面を、芝居巧者がリアルに肉付けする。じれったくすれ違う心の彷徨を、道徳的是非など問わずありのまま見つめ、エンディングの先にも想像をめぐらせたくなる、「顔」に重なる力篇。

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