この日々が凪いだらの映画専門家レビュー一覧

この日々が凪いだら

様々な変化に向き合う若者たちを繊細な筆致で描き出す群像劇。故郷を捨てるように上京し、建設現場で汗を流す宮嶋大翔。ある日、花屋で働く望月双葉と出会い、いつしか恋人同士となるが、住居の取り壊しや身近な人の死によって彼らは変化を余儀なくされてゆく。出演は「灯せ」のサトウヒロキ、「愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景vol.1」の瀬戸かほ。『MOOSIC LAB 2019』にて『ゆうなぎ』のタイトルで上映された常間地裕監督による長編デビュー作。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    序盤の取って付けたような元号にまつわる恋人同士の会話は面映いが、これはとても切実で地に足の着いた、社会の非流動性(つまりは格差社会)の中でもがく「令和」の若者たちを描いた作品だ。上滑り気味の台詞やありがちな展開もすべて機能して、近年の「リアルっぽい青春映画」とは一線を画したリアリズムを獲得している。憧れやノスタルジーではなく、生活と地続きにある救済としてのポップミュージック=カルチャーの描き方も象徴的。ロケーションの選び方や編集のセンスも非凡。

  • 映画評論家

    北川れい子

    凪の反対語は時化るだが、ここに登場する20代後半の男女たちは、格別、時化的な状況にいる訳ではない。惰性で同棲しているようなカップルにしても、仕事のミスを叱責される社員にしても、あくまで彼ら個人の裁量だ。ところが本作のチラシには〈大きな時代のうねりのなかで、日々、翻弄される私たち〉とある。そうか、受け身で流されているのは時代のせいなのか。中盤、受け身では済まされないことが起こり、やっと行動に出るが、言い訳がましいタイトルといい、甘い、甘い。

  • 映画文筆系フリーライター

    千浦僚

    冒頭のボーイミーツガールから危機を経て終幕の寄り添いまで、予定調和のようでありながら男女と世界に緊張感があり、またくっついたときには平坦な円環でなく螺旋状に回ってきた感があった。あるとき瀬々敬久「糸」の感想で、何でこんな退屈な映画つくれるんだ、みたいなのを見かけたとき、ネガティブ状態から獲得された尊い普通が単なる普通と見誤られたのが悔しかった。本作もそれに似るものがある。五頭岳夫と小田篤が演じた人物の取り上げかたが本作の評価すべき美質だ。

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