クナシリの映画専門家レビュー一覧

クナシリ

旧ソ連出身でフランス在住の映像作家ウラジーミル・コズロフが、日本の北方領土・国後島の現実を捉えたドキュメンタリー。ロシア側の主張に偏ることなく、至るところに残る第二次世界大戦の痕跡を掘り起こしながら暮らす島民たちの生活の実態を映し出す。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    北方領土について教科書的な知識しか持っていない私を含む多くの人間にとって、貴重な知見を授けてくれる一本であることは間違いない。日露の友好関係について耳触りの良い発言をしていたはずが、二度目に登場し島の返還について質問された際には一転して強硬な姿勢を示す男など、時折印象的な人物も表れはする。しかし、告発としては意義深いとしても、あくまでも政治的な問いと結びつく形で日常を捉えようとする本作は、現在島で暮らす人々の「生活」を撮ることには失敗している。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    国後島の歴史的な経緯やロシア、日本の政治問題に切り込まないことに若干物足りなさは感じる。しかし淡々とロシア人の現在と強制退去させられた日本人の痕跡を映し出す撮影者が、「あとで」と言われたまま40年間トイレの設置を放置された女性の訴えに「忘れられるなんてひどい」と思わず口にするシーンは本作に静かな情動を滲ませる。歴史的な経緯や政治ドラマよりも、こうした生々しい忘却された人たちの小さな声を聞き、国後島に吹き荒ぶ風や波を見つめる姿勢は好ましい。

  • 文筆業

    八幡橙

    くすんだ、薄曇りの空の下に、荒れ果てた土地が広がる。名前だけしか知らなかった「国後島」の今の姿に、鑑賞中ずっと寒風に吹かれる思いがした。止まった時計が象徴するように、日本が退去を強いられてから75年以上に及ぶ長い間、なんら発展的な進捗を見せることもなく、そこには錆びた戦争の爪痕だけが、ただじっと潜み続ける。白黒写真に写る、かつてそこで暮らした日本人たちの「生きた」顔や姿が出口の見えない争いの空疎さを訴えかけ、鈍色の重い雲ばかりが胸に残った。

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