国境の夜想曲の映画専門家レビュー一覧

国境の夜想曲

「海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~」のジャンフランコ・ロージ監督によるドキュメンタリー。イラク、シリア、レバノン、クルディスタンの国境地帯を旅し、圧政や侵略などにより多くの犠牲者を出す地で生きる人々の痛みとその先にある希望を映す。第77回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品作品。第33回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門上映作品(映画祭題「ノットゥルノ/夜」)。山形国際ドキュメンタリー映画祭2021コンペティション部門正式出品作品。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    子どもたちが淡々と恐ろしい体験を語る。どういう風に人が殺されたか。無邪気な分だけ、怖さ倍増だ。国境に暮らす人々は、みんなじっと何かを我慢している。声高に何かを訴えることをしない。見ていて、ジリジリしてくる。戦闘地での人々の淡々とした日常。写っている人たちは、みんなカメラがあることを意識してないように見える。どうやって撮ったんだろう。不思議だ。少年が疲れて、ソファに横になって、体を長々と伸ばす仕草に、本当に疲れてるんだなあと思った。

  • 文筆家/女優

    唾蓮みどり

    美しい生活などというものが存在するだろうか。安易に美しいなどと言っていいのだろうか。では悲しいだったらいいのか。どんな形容も簡単にしてはならないような、生々しいものが延々と映っている。生々しいのに生々しくない。語られる言葉や人々の顔に刻まれた悲しみや苦しみを、ただじっと見つめていることしかできない。この映画が流れている間、すべての時間と感覚をそこに集中させなければならないという気持ちになる。それが観客という立場でいられる人間のせめてもの敬意だ。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    引っかかるのは、つねに「不在」が画面を成り立たせている点だ。母親が監獄の跡を訪ね、殺された息子を悼む箇所に顕著だが、どの場面も「そこにはないもの」こそが主題である。恋人たちは雨を話題にするが、それは降っていない。兵士は暗闇のなか廃墟を捜索するが、何も見つけない。携帯にボイスメッセージを残す娘は誘拐され、ここにいない。だが、この映画に偏在しながら決して映されないのは畢竟ISISであり、すべてがそれと同一の水準に置かれている。無邪気すぎやしないか。

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