梅切らぬバカの映画専門家レビュー一覧
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映画・音楽ジャーナリスト
宇野維正
不動産用語だと、本作で隣家が引っ越してきた土地は旗竿地。渡辺いっけい演じる世帯主はかなり格安でこの物件を入手したはずで、そもそも文句を言えた義理ではない──というのはまったくの余談だが、その淡々とした語り口に比して、本作に込められた現代社会への問いかけは、観客を傍観者のままではいさせない凄みがある。さすが、加賀まりこが久々の主演作として選んだ作品だ。一方、塚地武雅は芸達者だが、この役はどうしたって「裸の大将」が頭をよぎる。タイプキャストの難しさ。
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映画評論家
北川れい子
しっかり者の母親と50歳になる自閉症の息子の日常に、世間の誤解や偏見を絡めたヒューマンドラマで、決して大袈裟な話ではない。けれどもどうも釈然としない。母子の住む一軒家の庭の梅の木は路上にまで伸びていて、越して来たばかりの隣家の夫はいい迷惑だと思っている。おいおい、その家を買う前に下見はしなかったの? 周辺の人々にしても長年そこに住んでいる母子のことは知っているはずなのに、意地悪をしたり。こういう描写がせっかくの母子の話を通俗化して凡庸に。
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映画文筆系フリーライター
千浦僚
伊勢真一監督のドキュメンタリー諸作、また、杉本信昭監督「自転車でいこう」、青柳拓監督「ひいくんのあるく町」などのドキュメンタリーを連想するが、和島香太郎監督は自身が関わったドキュメンタリーでこぼれ落ちた部分を劇映画にしたとのこと。なるほど。たしかに実在する人と場はザラッとすることを外したうえで見せられる気がする。そこが本作の見甲斐だ。タイトルが秀逸。不勉強ゆえ初めて知った。省かれた前半の、桜切るバカ、と合わせて含蓄のある言葉だと。
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