ジョゼと虎と魚たち(2020:韓国)の映画専門家レビュー一覧

ジョゼと虎と魚たち(2020:韓国)

田辺聖子の同名短編小説を韓国で映画化。大学生・ヨンソクは、道端で倒れていた車椅子の女性を家まで送り届ける。彼女はジョゼと名乗り、祖母と二人で暮らしていた。本で知識を得ることを好み、独特な感性を持つジョゼに、ヨンソクは段々と興味を持っていく。出演は、「虐待の証明」のハン・ジミン、ドラマ『スタートアップ:夢の扉』のナム・ジュヒョク。監督・脚本は、「もう少しだけ近くに」のキム・ジョングァン。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    観る前は正直言って今さらリメイクすることになんの必然性があるのかと訝しんでしまったが、蓋を開けてみれば思ったよりも楽しく観られた。韓国ならではの階級差の要素をさほど掘り下げることもない、終盤の改変を含めたどちらかというと甘口の仕上がりには賛否はあろうが、とりわけ何度か登場するエンプティショットと見事に呼応する原作と日本版の時代には存在しなかったGoogleマップの取り入れ方には、コロナ禍の引きこもり生活を捉え直す契機ともなり得る新鮮さを感じた。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    犬童一心版では携帯が一切映らず、いつの時代なのかも不確かなその世界は、そのまま二人のはっきりしない低温な関係性と重なり、この曖昧さこそが人間なのかなんて思った気がする。一転、本作は携帯にわざわざ言及する場面を用意している。しかし、それが新しさや明確さを強調することはなく、重要なのは古く暗い民家の混沌としたリビングで作る手料理だったりする。そして家が次第に片付いていくとき、映画は人間の明確さを拒むように、二人の距離を縮めつつ決定的に離れさせる。

  • 文筆業

    八幡橙

    リメイクは難しい。何を残して、何を捨てるか。改変したり、新たに付与する部分に、オリジナルを凌ぐ魅力をいかに持たせ、惹きつけるか。童顔かつ根は無垢でありながら、しゃべり出すと途端に大阪のおばはんと化す犬童一心版のジョゼを、無口で堅く閉ざした人物に変えたことを筆頭に、キム・ジョングァン監督の選択は、ことごとく裏目に思えた。原作はともかく、この流れなら水族館は閉まっているべきでは。「虎」と「魚」の暗示するもの、物語の肝まで曖昧な雰囲気に霞んでしまった。

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