芸術家・今井次郎の映画専門家レビュー一覧
芸術家・今井次郎
60歳の人生を生きた芸術家、今井次郎の創作の秘密に迫るドキュメンタリー。作曲家、ミュージシャン、造形作家、パフォーマーなど、既存の枠組みにとらわれない活動を続けた今井の足跡と存在を、莫大な資料や過去の音源・映像、関係者インタビューで解き明かす。2012年に悪性リンパ腫となった今井は、死に至る半年間の入院生活のなかで、病院食を使った「ミールアート」などをSNSで発信し続けた。2021年にはそれらが『今井次郎病院作品集』として出版され、彼のユニークな才能にいま注目が集まっている。監督は今井とは劇団『時々自動』で知己となった青野真悟と大久保英樹。「ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎 90 歳」「沖縄スパイ戦史」などの橋本佳子がプロデューサーを務めた。
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脚本家、映画監督
井上淳一
売れるとか売れないとか、ウケるとかウケないとか、分かるとか分からないとか、そんなことを考えず、ただ表現せざるを得ない衝動を表現する。それこそが表現において一番大切だと教えてくれるそんな映画。今井次郎をはじめ、本作に出てくるアーティストを誰も知らなかった。恥ずかしい。親の金で好き放題生きてきた感じ。自分と同じだと思う。なのにこの差。全映画人、爪の垢を煎じて飲め。僕も。入院中に病院食で作った作品群。食べたら消える死への暗喩。生ある限り表現。泣けた。
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日本経済新聞編集委員
古賀重樹
魅力的な人物が映っていればそれだけで十分というドキュメンタリーがあるけれど、この映画はまさにそう。今井次郎という存在とそのオブジェやパフォーマンスを見ているだけで飽きない。人物と作品の力をよく知る監督と製作者が素材を存分に生かし、余計な味付け(意味づけ)をしない。仲間のアーティストたちがそれぞれの言葉で今井の魅力を語るが、今井本人の自己言及は一切なし。ただただあふれ出る創造力だけが映っている。がん病棟の病院食で作ったミールアートの力強さよ。
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映画評論家
服部香穂里
演劇集団〈時々自動〉での活動に加え、卑近な素材のオブジェ制作やパフォーマンス、元たまの石川浩司とのユニットなど幅広い音楽活動も展開した、今井次郎氏の生涯の濃密さは存分に伝わる。ただ、彼を慕う証言者やスタッフの思い入れの深さゆえに、その型破りな軌跡に観客個々が思いをめぐらす余地のようなものまで締め出されてしまった感も。病院食や薬袋などを愛らしく駆使した、今井氏晩年の自己表現を淡々と映し出す終盤、やっと“芸術家”の真価の一端に触れられた気がした。
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